さのさ節

「あ」

愛し愛されて 二人で誓いし 仲なれど 浮世の人に 邪魔をされ
会うことさえもネ ままならぬ 逢うわ夜毎の 夢ばかり ハサノサ

逢いたさを じっとこらえる このつらさ 人にも言えなきゃ 明かされず
一人でふたりのネ 苦労する 浮気どころの 沙汰じゃない ハサノサ

逢いたいと こちらで言わなきゃ 逢うてもくれず あなたに実意の 無い証拠
起きて頂戴ネ 寝ちゃいやよ 忘れた時分に 来たくせに ハサノサ

あいみての 後の心に 比ぶれば 思いぞ勝る 昨日今日
いっそ他人でネ あったなら こうした苦労も あるまいに ハサノサ

あの日より あなたのお顔を 見る時は 私の小さな この胸が
あなた焦がれてネ 痛むのよ 早く治しに 逢いに来て ハサノサ

あの時に いっそつれなく されたなら こうした苦労も あるまいに
なみじ優しいネ 一言が またも涙の 種となる ハサノサ

悪縁か 因果同志か 敵の末か 添われぬ人ほど なお恋しい
あの時会わねばネ 知らぬ人 会うたあの日が 恨めしい ハサノサ

愛染の 花も嵐も 踏み越えて 強い女に なりました
恋は思案のネ 帆掛け船 風のまにまに 西東 ハサノサ

あきらめて いっそこのまま 帰ろうか 後ろ髪引く この思い
忍び逢う夜のネ 首尾の松 しばし思案の 曲がり角 ハサノサ

浅くとも 清き流れの かきつばた 飛んで行き来の 編み笠を
のぞいて来たかネ 濡れツバメ 顔は見とうは ないかいな ハサノサ

秋の夜は 長いものとは 知りながら 待つ身つらさに 窓開けりゃ
月にこぼれるネ 白萩の 蔭で松虫 焦がれ鳴く ハサノサ

 

「い」

色でなし 恋で尚なし ただ何となく 喰いつきたいほど 好きな人
と言うて私のネェ 人でなし 人でないのに 人が取るかと 案じられ ハサノサ

命まで 差し上げたいほど 思えども あなたは大家の 旦那様
所詮女房にゃネェ なさるまい せめてお側の 小間使い ハサノサ

今しばし 文もよこすな 便りもするな 僕の勉強の 邪魔になる
やがて卒業のネェ あかつきは 天下晴れての 僕の妻 ハサノサ

一でなし 三で尚なし どっこい二が抜けた 四(し)でなし六でなし おやまた五が抜けた
七でなし八でなしネェ 十(とう)でなし 私もこの頃 九(く)が抜けた ハサノサ

一日逢わねばネ 一日逢わねば 百夜の思い 数えりゃ昨日の 今日なのに
不実のようだがネェ 忘れたい 昼は幻 夜は夢 ハサノサ

いつしかに 三味線枕の うたた寝が ふっと契りし 二人仲
引くにひかれぬネェ 仲となり いやに調子が 狂いだし ハサノサ

意気なもんだよネ 雪に駒下駄 二の字形になり 鳥の足跡 散り紅葉
猫の足跡ネェ 梅の花 壁にトンボは 「キ」の字なり ハサノサ

伊豆の山 星は夜空に 銀砂子 川のせせらぎ  鳴く河鹿
旅の灯りもネェ 湯にぬれて どこで弾くのか さのさ節 ハサノサ

今更に 飲めぬ盃 また重ね 酔うた素振りで 寄り添えば
思いせつなくネェ はずむ胸 なぜにこうまで 気が弱い ハサノサ

今だから 意見するのじゃ ないけれど ここらが思案の しどころさ
水の深瀬とネェ 色恋は 深くなるほど 身が立てぬ ハサノサ

いじらしや 潮来出島の 真菰の陰で あやめ咲くとは  知らなんだ
真菰刈るとてネェ 鎌いれて いとしあやめの 花を切る ハサノサ

「う」

うぐいすが 梅の小枝で 昼寝して つぼみ枕に 花蒲団
恋の夢見てネェ 目を覚まし 空を見上げて ホーホケキョ ハサノサ

「お」

奥さんは あなた一人が 頼りでしょうが 私だって あなた一人が 頼りなの
一年三百ネェ 六十五日 数えりゃ 幾日 逢えるやら ハサノサ

折れたかんざしネ 折れたかんざし 二度とは差さぬ 別れたお方にゃ また会わぬ
会わぬつもりでネェ いたけれど 顔見りゃ 未練で また迷う ハサノサ

男なら 必ずよそで 惚れられしゃんせ そこはあなたの 腕次第
照れず照らさずネェ 程よくに そして惚れずに 帰りゃんせ  ハサノサ

お互いに 知れぬが花よ 世間の人に 知れりゃ互いの 身の詰まり
飽くまでお前にネェ 情立てて 惚れたが無理かえ しょんがいな ハサノサ

お互いに ままにならぬが この身体 この上世間を 狭くして
泣いて二人がネェ 暮らすより 首尾良く 逢いましょ いつまでも ハサノサ

「か」

桂川 お半を背に 長右衛門 安珍清姫 日高川
お久美法界坊はネェ 舟の中 お染久松 倉の中 ハサノサ

壁に耳ありね 人の口には 戸は立てられぬ 誰もが知らない 二人が仲を
それが世間にネェ 知れたのは 枕が他人に 告げたのか ハサノサ

髪も結うまいネ 髪も結うまい 化粧もすまい 頼るお方は 旅の空
独り寝る夜のネェ 仇枕 窓に泣くよな おぼろ月 ハサノサ

川風に つい誘われて 涼み舟 文句もいつしか 口舌して
粋なすだれのネェ 風の音に 漏れて聞こゆる 忍び駒 ハサノサ

「き」

聞かせてね 今夜はじっくり 本当の胸を 聞けばいやせぬ 無理なんぞ
こんな私がネ 重荷なら 好きなあなたも あきらめる ハサノサ

昨日も今日もね 心は恋の 五月雨や 晴れて曇るは  胸の闇
逢えぬつらさにネ 袖濡らす 逢えば別れに また濡らす ハサノサ

昨日も今日もね 昨日も今日も おとといも 来るか来るかと 待ちわびて
訪ずるものはネ あの人の 面影やさしい 立ち姿 ハサノサ

義理捨てて 人情も捨てて 世も捨てて 親兄弟まで 捨てたのに
お前一人がネ 捨てられず 元は他人で あったのに ハサノサ

京の四季 花見にごんせ 東山 河原に集う 夕涼み
真葛ヶ原にネ 秋の色 今朝も来て見よ 雪見酒 ハサノサ

「く」

来るとあなたはね 来るとあなたは ソワソワと 義理で来るのが 嫌なのか
私の云う事はネェ 聞きもせず 聞くは時間の 事ばかり ハサノサ

口車 恋の手管も 身について 泣いて笑うて 口説きよせ
世辞で丸めてネェ のせといて 惚れたお前さんの 舵を取る ハサノサ

口惜しや 閉めた雨戸を 又開けて 外を覗けば 宵闇の
庭の紅バラネェ 白バラが 月に冴えるも 恨めしや ハサノサ

「け」

今朝結いし 髪もいつしか 乱れ髪 人に問われて ほんのりと
こぼす笑顔にネェ 散る紅葉 逢うて嬉しき 今朝の雨 ハサノサ

今朝の雨 濡れてしっぽり 打ち解け顔に 帰りともない 恋の欲
着せる羽織にネェ 頬寄せて 今の別れが 身にしみる ハサノサ

今朝の別れにね 今朝の別れに 鳴いたる烏 何が悲しゅうて 鳴くのやら
なんぼ鳴いたとてネェ 知らないよ なんでこの手が 放さりょか ハサノサ

「こ」

心して 我から捨てし 恋なれど せきくる涙 こらえかね
うさを忘れんネ 盃の 酒の味さえ ほろ苦く ハサノサ

心では 死ぬほど思うて いるくせに あなたの前では 一言も
やさしい言葉もネ かけずして 別れりゃ 逢う日を 待つばかり ハサノサ

これからは お酒も飲みます 浮気もします 若い血潮の 枯れるまで
一度破れしネ この恋は 二度とふたたび 戻りゃせぬ ハサノサ

この中に 私の好きな人 ただ一人 年も言えなきゃ 名も言えぬ
そして皆さんのネ 知った人 言えば世間が 邪魔をする ハサノサ

焦がれても 添われぬ事は 知りながら あきらめ切れぬが 身の因果
あの時逢わねばネ ただの人 今じゃ逢うた昔が 恨めしい ハサノサ

「さ」

最初には さほど好きと 思わねど 逢うたびごとの 親切が
身にしみじみとネ しみわたり 今じゃこちらが 命がけ ハサノサ

酒の肴にね 酒の肴に くさやを焼いて ちびちび飲んでる 江戸の人
噂立つのはネ 無理はない どうせ二人は 臭い仲 ハサノサ

さのさ節 好いた同志が 差し向かい 三味を抱えた この腕の
紅の袖口ネ 色めいて 糸の音〆も 本調子 ハサノサ

「し」

忍ぶ恋路のネ 忍ぶ恋路の はかなさよ 今度逢う夜は 命がけ
涙で汚すネ 白粉の その顔隠す 無理な酒 ハサノサ

しみじみと あなたの優しさ 思い出し よその人にも 同じかと
思いまわしてネ 独り寝の 夢も冷たい 洗い髪 ハサノサ

十五夜の 月より清い 主さんと 今別れては 真の闇
山奥育ちのネ ホトトギス 先じゃ知らねど 鳴き明かす ハサノサ

島田つぶしてネ 島田つぶして 丸髷結うて 鏡に向かいて 櫛を取り
昔思えばネ 片えくぼ 苦労のおかげで 楽をする ハサノサ

新年の 年の初めの 福寿草 交わす盃 屠蘇の味
思い無量のネ 新所帯 日差し明るい 羽根の音 ハサノサ

「す」

好きなのよ ほんとに好きなの 死ぬほど好きなのよ あなたの心は 知らねども
それでいいのよネ 私だけ 焦がれて待ちます 来る春を ハサノサ

好きな方でもネ 好きな方でも 添われぬ私 これが芸者の 恋かしら
顔で笑ってネ 心で泣いて 手に持つ 左褄 ハサノサ

「せ」

泉水に 泳いでいるのは ありゃ金魚 あなたの心に よく似てる
上辺はきれいにネ 見ゆれども 煮ても焼いても 食べられぬ ハサノサ

世間では 切れた切れたと 言いふらし 何故にたやすく 別りょうか
苦労した仲ネ させた仲 と言うて逢わずに 居らりょうか ハサノサ

「そ」

そりゃ無理よ 二、三日なら 辛抱もしようが 十日も二十日もその間
便りもせずにネェ 居られようか まして男心と 秋の空 ハサノサ

「た」

高砂や 親が許せし 二人が仲を しゃんと結んだ 帯締めて
金襴緞子のネェ 姿して 過ごす新婚 春の宵 ハサノサ

玉子酒 飲んでそのまま 膝枕 お風邪召します ねぇあなた
晴れて逢われるネェ 身ではなし 積もる話が たんとある ハサノサ

たまに来て お話ぐらいで 帰さりょか 真実私が 可愛いなら
一度ぐらいはネェ 遅れても 聞いて頂戴 たまの無理 ハサノサ

「ち」

近ければ 顔見てなぐさむ こともある 遠く離れりゃ 月見て泣くばかり
落つる涙をネェ 溜めおいて 主に文(ふみ)書く 硯水 ハサノサ

茶の科か 寝られぬままの 爪弾きに 憂き川竹の 水調子
涙ににじむネェ 薄月夜 曇りがちなる 我が思い ハサノサ

「つ」

月づくし 三笠の山では 春の月 四条河原の 夏の月
三保の松原ネェ 秋の月 京の山科 冬の月 ハサノサ

月も日も 所も場所も 知らさずに あのときあの家の 奥座敷
口説きもせずにネェ 口説かれも せずに出来たる 深い仲 ハサノサ

「て」

手を握り グットバイよと 二足三足 別れかねてぞ 後戻り
互いに見交わすネェ 顔と顔 なんにも言わずに 目に涙 ハサノサ

手を引いて 二人で拝む 十五夜の 月の光で 顔と顔
満つれば欠くるネ 世のならい 忘れしゃんすな 二世三世

「と」

遠ければ 遠いと思い あきらめも 近くに居ながら この始末
電話も出来なきゃネェ 文(ふみ)さえも 出せない私を 恨みます ハサノサ

問われても 言っちゃいけない 二人が仲を 今日の味方も 明日の敵
誠明かしてネェ 語るのは 広い世間に ただ一人 ハサノサ

鳥ならば 飛んでゆきたや あの家(や)の屋根に 木の実榧の実 食べてでも
焦がれて鳴く声ネェ 聞かせたら よもや見捨てなんぞは なさるまい ハサノサ

「な」

何だ何だ何だね あんな男の 一人や二人 欲しくばあげましょ 熨しつけて
とは云うもののネェ あの人は 初めて私の 惚れた人 ハサノサ

泣くまいと 思い定めて 寝は寝たものの いつしか濡れてる 枕紙
遠くじゃ知るまいネェ この思い 夢でもなりとも 知らせたい ハサノサ

泣き虫が しばし逢わなきゃ 悔し泣き 逢えば抱きつき うれし泣き
更けて口舌のネェ 忍び泣き 辛い別れを 怨み泣き ハサノサ

「ぬ」

主さんに とても添われぬ 縁ならば 思い切りましょ 忘れましょ
とは言うもののネェ 心では 添いとげたいのが 身の願い ハサノサ

「ね」

ねぇあなた も一度ぐっと 抱きしめて 息が詰まれば 嬉しいの
あなたまかせのネェ この身体 あたしのこの胸 ホラ・ネ こんなに熱いのよ ハサノサ

ねぇあなた 私とお酒と どちらが好きなのよ 飲まなきゃ帰るし 飲ませばはしご酒
せめて今夜はネェ じっくりと あなたの胸で 泣きたいの ハサノサ

「は」

羽織かくしてネ 羽織かくして 袖引き留めて どうでも主は ゆかんすか
障子細めにネェ 開けて見て それ見やしゃんせ この雪に ハサノサ

葉桜や 昨日は華と はやされて 今日は見返る 人もなし
げにはかなきはネェ 人の世や ゆるすまいぞえ 我が心 ハサノサ

「ひ」

一人寝の 夜毎に濡らす 枕紙 遠くで聞こゆる 清元の
一日逢わねばネ 千日の 思いは三千歳 だけじゃない ハサノサ

独り身の 粋な方より 妻ある方に なぜか私の 虫が好く
罪じゃよそうとネ 思えども 諦められぬが 恋の仇 ハサノサ

人様が 意気だ意気だと 言わんすけれど 少しは野暮にも なりゃしんせ
あなた甲斐性がネ 無いばかりに 私の苦労が 増すばかり ハサノサ

「ふ」

深酒を 好きで好んで 飲むんじゃないが 逢えない時の 悲しさを
じっとこらえてネ 飲むつらさ これもあなたの 罪になる ハサノサ

吹く風に のせてやりたい 今見た夢を 恋しいお方の 枕辺へ
通り心もネ 風便り 今はいずくで 仮の宿

「へ」

隔つとも 同じ雲間の 月を見る あの星辺りが 主の宿
逢いたい見たいはネェ 山ホトトギス 姿見えなきゃ 声なりと ハサノサ

「ほ」

ほおずきは 小さい時から 指さしさされ 色づきゃ 他人(ひと)の 手にかかり
腹をえぐられネェ 口吸われ 末はふうふと なるわいな ハサノサ

蛍狩り 借りた団扇が 縁結び 今じゃ水田(みずた)に 家が建ち
あやめ蛍のネェ 影もなく あたしも二人の 親となる ハサノサ

「ま」

丸髷に 結わるる身をば 持ちながら 時節待てとの 仰せ故
今日の苦労もネェ するわいな 晴れて添う日は いつのこと ハサノサ

また喧嘩 寄るとさわると 喧嘩して 因果同志と 笑われて
別れかれないネェ 二人仲 それをご存じ 夜半の月

待ちわびて 所詮来ないと あきらめて グッとあおった 茶碗酒
女だてらにネェ ごろ寝すりゃ 風邪をひくよと 起こされる ハサノサ

「み」

水の出花とネ 水の出花と 二人の仲は 堰かれて逢われぬ 身の因果
例えどなたのネ 意見でも 思い切る気は 更に無い ハサノサ

水も無き 水無き小川の 水車 廻らぬ車の 悲しさを
じっとこらえてネ 涙ぐみ どうすりゃ心が 通うやら ハサノサ

水車 水ゆえ廻る コトコトと 風で廻るは 風車
貧すりゃ廻るはネ 火の車 私は悋気で 気が廻る ハサノサ

「む」

無理すれば 添われぬ事は なけれども これより世間を 狭くして
泣いて二人がネ 暮らすより 首尾して逢いましょ いつまでも ハサノサ

虫の音を 止めて淋しき 独り寝の 秋の七草 数あれど
主に思いはネ ただ一つ 一人寝る夜の 味気なさ ハサノサ

「も」

もともとは もともと他人で その後も他人 別れた時にも まだ他人
それで居ながらネ あの人が 月日たてども 忘られぬ ハサノサ

もう見えぬ こんなに愛しているものを 胸を両手に 抱きしめて
時雨降る夜のネ 分かれ道 消えてつれない 後ろ傘 ハサノサ

「や」

山吹の 花をひと枝 折りたさや 折らせませんじゃ なけれども
いまだつぼみのネ 恥ずかしさ 咲いたら折らんせ 幾枝も ハサノサ

「ゆ」

許してね 悲しい時には こらえても 嬉しい時には 泣けるもの
やはり女はネ 愚痴っぽい 愚痴で日も照る 日も曇る ハサノサ

夢か現かね 現か夢か けじめがつかぬ いつまで身体が もつかしら
過去も未来もネ いらないわ 朝までこうして 二人きり ハサノサ

「よ」

宵に待ち 夜中は焦がれ 明くる頃は せめて夢でも 逢いたいわ
眠れぬ夜をネェ 待ち明かす 耳にやかまし 鶏の声 ハサノサ

四畳半 かけた三味線 しみじみ眺め 一でゆるめて 二でしめて
三であなたのネェ 気を引いて しまいにゃ互いに 本調子 ハサノサ

世の中に 恋ほど辛いものはない 人に笑われ 指さされ
友達衆にはネェ 気兼ねして 末に添うやら 添えぬやら ハサノサ

世の中に 不思議な事が 三つある 傘屋の娘は さしたがる
風呂屋の娘はネェ 入れたがる 桶屋の娘は しめたがる ハサノサ

「わ」

我が恋 細谷川の 丸木橋 渡るに怖し 渡らねば
恋しいお方にネェ 逢わりゃせぬ どうすりゃ 思いが届くやら ハサノサ

わがままな 気ままな奴じゃと 云わしゃんすけれど 他の座敷で わがままするじゃなし
許してちょうだいネェ あなたより わがまま云う人 他に無い ハサノサ

我がものと 思えば軽ろき 傘の雪 恋の重荷を 肩にかけ
川風寒くネェ 千鳥鳴く 待つ身につらき 置き炬燵 ハサノサ

別れても 他所で逢うたら 物云わしゃんせ 嫌で別れた 仲じゃなし
義理に詰まればネェ ウグイスも 梅の木離れて 藪で鳴く ハサノサ

忘れているのネ 忘れているのに 又顔見せて 思い出させる 罪な人
明るい心をネェ 曇らせて 二度の苦しみ させる気か ハサノサ