えんかいな

春の夕べの 手枕に しっぽりと降る 軒の雨 濡れてほころぶ 山桜 花がとりもつ えんかいな

空も長閑き(のどけき) 春風の 柳に添いし二人連れ 目元互いに桜色 花がとりもつ えんかいな

春の遊びの 夜も更けて 互いに競う 月花も そのままそこへ転び寝の カルタがとりもつ えんかいな

花の盛りに 来るつばめ のれんくぐりて何処へやら とまる浮気も春の空 見捨て帰るは 雁かいな

秋の夜長に ながながと つもる話も 後や先  晴れて差し込む ガラス窓 月がとりもつ えんかいな

月に浮かれて うかうかと 招く尾花の 吉原へ にわかに変わる 女郎花 酒(ささ)がとりもつ えんかいな

冬の寒さに 置き炬燵 屏風が恋の 仲立ちで つもる話に 夜も更けて 雪がとりもつ えんかいな

止めて悪いと 思えども 今朝の寒さは 取りわけて ままよもひとつ 卵酒 雪がとりもつ えんかいな

さっと吹き込む 隙間風 あまり寒さに 引き寄せて じっと抱きしめ 目に涙 これも夜着ない えんかいな

辛い別れの 後朝に 送りて出る はしご段 又の逢瀬を 楽しみに 叩く背中の ポンかいな

末は夫婦と 約束も 堅く二人が 取り交わす 腕の守りの金物に 彫り込む比翼の 紋かいな

花の盛りは 向島 土手に浮かれて 酒(ささ)きげん 乙な年増と思いざし これも何かの えんかいな

向こう鉢巻き 縄だすき 振り出す纏の 勇ましく 梯子さす又 並べ立て 火の見じゃ 半鐘が ジャンかいな

主の遊びは お付き合い 悋気せまいと 思えども 愚痴な女の ちんちんで 角出しゃ般若の 面かいな (ちんちん=焼きもち・嫉妬)

話にいつしか 夜を更かし かすかに聞こゆる 犬の声 鍋焼きうどんに 夜鷹そば 後が お稲荷さんかいな

寄れよ友達 春遊び カルタ取る手や 居ならぶに 負けて口惜しき 娘気の 顔にちらりと 墨かいな

春の眺めは 吉野山 峰も谷間も 爛漫と ひと目千本二千本 花が取り持つ えんかいな

冬の眺めは 円山で 上り下りの 京女郎 開く左阿弥の 大広間 雪が取り持つ えんかいな

ちらり姿を 三囲の 仇し契りを 枕橋 恋の闇路に 言問の 茶屋が取り持つ えんかいな

石川五右衛門 釜の中 お染久松 蔵の中 私とあなたは 深い仲 最中の中にも 餡かいな

名残り惜しさに 袖とめて ひざをすり寄せ 顔ながめ 今度逢うのは いつじゃやら 離れがたなき えんかいな

夏の暑さに 涼み舟 すだれを上げて 爪弾きの 仇な浮世の はやり唄 風が取り持つ えんかいな