端唄俗曲選集(4)

「浅くとも」

一、浅くとも
  清き流れの かきつばた
  飛んで行き来の 編み笠を
  覗いて来たか 濡れ燕
  顔が見とうは ないかいな

二、声も無く
  姿も見えぬ 垣根越し
  文箱に添えし 花菖蒲
  恋した露が うらめしい
  何故に逢いには 来ぬかいな

杜若(かきつばた):アヤメ科多年草 花菖蒲に似ている 季語(初夏)
杜若咲く吉原の廓風景を唄ったもの

 

「薄墨」

薄墨に 書く玉章の 思いして
雁鳴き渡る 宵闇に
月影ならで 主さんに
焦がれて 愚痴な畳算
思い廻して ままならぬ
早く苦界を候かしく

玉章(たまずさ):玉梓(たまあずさ)の約 玉は美称
古代手紙を梓の木などに結びつけて使者が持参した 手紙、消息、ふみ
畳算(たたみざん):かんざしやキセル等を畳の上に落とし、その落ちた所から畳の編み目を端まで数えて、その半丁(奇数偶数)の数で吉凶を占うもの
苦界:年季契約にしばられる遊女の境遇
かしく:カシコの転 女性の手紙の終りにつける語句

 

「うそとまこと」

うそとまことの 二瀬川
騙されぬ気で 騙されて
末は野となれ 山となれ
わしが思いは 君故ならば
三つ又川の 舟の内
心のたけを 御察し

三股川(みつまたがわ):隅田川

 

「裏の背戸屋」

一、裏の背戸屋に チョット柿植えて
  柿植えて カラスの来るように
  柿植えて カラスとまらかして 
  オッカカノカ カッカッカ・・・

二、裏の背戸屋に チョット竹植えて
  竹植えて 雀の来るように
  竹植えて 雀とまらかして
  オッチュチュノチュ
  チュッチュ・・

三、裏のお庭に チョット梅植えて
  梅植えて ウグイスの来るように
  梅植えて ウグイスとまらかして
  ホーホケキョ
  ホッホッホッホホケキョ

四、裏の背戸屋に チョット柿植えて
  柿植えて お猿さんの来るように
  柿植えて お猿とまらかして
  オッキャキャノキャ
  キャッキャ・・

背戸(せど):家の後ろ、裏
背戸屋=他の家の裏手にある家

 

「かっぽれ」

かっぽれかっぽれ
ヨーイトナ(ハヨイヨイ)
沖の暗いのに 白帆がサー見ゆる
(ハヨイトコリャサ)
あれは紀伊の国 
ヤレコノコレワイノサ
(ハヨイトサッサッサー)
みかん舟じゃエ(サテ)
みかん舟じゃサー見ゆる
(ハヨイトコリャサ)
あれは紀伊の国 
ヤレコノコレワイノサ
(ハヨイトサッサッサー)
みかん舟じエ(ンサテ)
豊年じゃ万作じゃ(ンサテ)
明日は旦那の稲刈りに(ンサテ)
小束にからげて チョイト投げた
投げた(サッサー)枕に
投げた枕に 科は無い
おせせのこれわいさ 
尾花に穂が咲いた 
コノ妙かいな(ンサテ)
ねんねこせ ねんねこせ(ンサテ)
ねんねのお守りは 
どこ行った(ンサテ)
あの山越えて 里行った(ンサテ)
お里のお土産に 何貰った(ンサテ)
でんでん太鼓に 笙の笛
寝ろてばよ 寝ろてばよ
寝ろてば 寝ないのか この子はヨ

かっぽれ:由来については事業に成功した紀伊国屋文左右衛門の帰国を祝う女達が「かっぽれ」又は「私ゃお前に活惚れた(かっぽれた)」という言葉に基づくという説や、イタリアの古舞踊「カーボレソ」の移植との説もあるが定説はない
紀伊国屋文左衛門:江戸中期の豪商
紀伊の人風浪を冒してミカンを江戸に輸送し、また材木商として江戸の大火に木曽の木材を買い占め数年で巨万の財産を積み豪遊して紀文大尽と称された

 

「川竹」

川竹の 浮名を流す 鳥さえも
つがい離れぬ おし鳥の
なかに立つ月 すごすごと
別れの辛さに 袖絞る
ほんに辛気な ことじゃいな

川竹:川辺に生えている竹のことその先が垂れ下がり常に川の水に流せれて浮いたり沈んだりしているので、これを浮き沈みの定まらない遊女の境遇に例えたもの
浮名:男女の情事のうわさ
すごすご:気落ちして元気がないさま また、元気なくその場を立ち去るさま
辛気:じれったくいらいらする事

 

「草の芽」初代藤本琇丈・作詞作曲

一、草の芽の
  便り聞いたか 土筆の坊や
  春を知らせに 袴をはいて

二、草の芽に
  香りたずねて お堀の鯉が
  蓮にほほよせ 尾をひらひらと

三、草の芽は
  菫たんぽぽ レンゲにあざみ
  せりに菖蒲に よもぎにはこべ

 

「さいこどん節」

一、恋の痴話文ナー ネズミにひかれ
  猫をたのんで 取りにやる
 ※ズイトコキャ イワイデモ
  カマコッタナイ
  サイコドンドン サイコドンドン
  サイコドンドン 
  ササ サイコドンドン

二、羅生門よりナー 晦日が恐い
  鬼が金札 取りに来る

三、想えその文ナー 何処から来たの
  想うお方の 所から

痴話文:相手に恋慕の情を書いて送る手紙・恋文
はやし言葉:意味は分かりませんが言葉が面白いので明治中頃に流行し、後に「どんどん節」に発展したとかしないとか?

 

「四季の唄」

春、春はうれしや 
  二人揃って花見の酒
  庭の桜に朧月
  それを邪魔する雨と風
  チョイト咲かせて また散らす

夏、夏はうれしや
  二人揃って鳴海の浴衣
  団扇片手に夕涼み
  雲が悋気で月隠す
 チョイト螢が 身を焦がす

秋、秋はうれしや
  二人揃って月見の窓
  色々話を菊の花
  しかと分からぬ主の胸
  チョイト私が 気を紅葉

冬、冬はうれしや
  二人揃って雪見の酒
  障子開くれば銀世界
  話も積もれば雪も積む
  チョイト解けます 炬燵中
  ハヒヤヒヤ

鳴海:鳴海絞り 鳴海付近に産する絞り染め 有松絞り
悋気:嫉妬、やきもち

 

「すととん節」

一、ストトン ストトンと通わせて
  今更いやとは 胴欲な
  いなやら いやだと最初から
  言えばストトンで 通やせぬ
  ストトン ストトン

二、ストトン ストトンと戸を叩く
  主さん来たかと 出てみれば
  そよ吹く風に だまされて
  月にはずかし 我が姿
  ストトン ストトン

三、向こう通る ハイカラ美人
  横目でチョクチョク 僕を見る
  こいつぁてっきり おいでだと
  よく見りゃ何だい やぶにらみ
  ストトン ストトン

四、あなたみたいな いい男
  私みたいな お多福が
  提灯釣り鐘 釣り合わぬ
  見捨てられても 無理はない
  ストトン ストトン

胴欲:貪欲(どんよく)の転 非常に欲が深いこと ひどくむさぼること むごいこと 非道なこと

 

「竹になりたや」

一、竹になりたや 
  紫竹竹 八竹竹
  あだな按摩さんが
  ピピピピ~ 竹の笛
  ピーピッピ

二、本所五ツ目の
  五百羅漢のお堂を廻れば
  粋な羅漢さんが
  陰気に陽気に笑い顔
  通人もオホン いるよ

三、いっちくたっちく
  竹橋の赤いシャッポの
  兵隊さん
  何食っておイモ食って
  薩摩食って
  プププププ プープップ

紫竹:生えた年は緑色で翌年から紫黒色になる真竹の一種 元の太い所は「尺八」中は「笛」先は「筆の軸」
本所五ツ目:「五百羅漢寺」当初は本所五ツ目(現在の東京都江東区大島)にあったが、埋め立て地であったためか度々洪水に見舞われて衰退し、明治時代に目黒区中目黒の現在地に移転した

 

「露は尾花」

一、露は尾花と 寝たと言う
  尾花は露と 寝ぬと言う
  あれ寝たと言う 寝ぬと言う
  尾花が穂に出て 現れた

二、月は清水と 寝たと言う
  清水は月と 寝ぬと言う
  あれ寝たと言う 寝ぬと言う
  月は田毎に 現れた

三、雁は月夜を 粋と言う
  尾花は月を 野暮と言う
  あれ粋と言う 野暮と言う
  恋は野暮さえ 粋となる

尾花:秋の七草の一つ 正確に言うとススキの穂先にある黄褐色の花穂で、これがふさふさとして獣の尾に似ているところからこの名前が生まれた
歌詞の内容は露を男性尾花を女性に例えて唄ったものでしょう
田毎(たごと)の月:小さく区切った水田の一つ一つに映る月のこと

 

「初音聞かせて」

初音聞かせて 春告げ鳥や
人の心も 白梅の
かごとがましき 嬉し泣き
エエじれったい 
恋が浮き世か 浮き世が恋か
ちょっと一筆 懸想文

初音:鳥や虫のその年その季節の最初の鳴き声 特に、ウグイスの鳴き声にいう
かごとがましき:かごとがまし=いかにも恨みがましい
懸想文:懸想=異性に思いをかけること 恋慕 懸想文=恋文・ラブレター

 

「花は上野」

花は上野か 染井のつつじ
今日か飛鳥と 日暮らしの
君に王子の 狐穴から
いろはの女郎衆に 招かれて
うつらうつらと 抱いて根岸の
身代わり地蔵を 横に見て
吉原五丁 廻れば 
引け四つ過ぎには 間夫の客
上がりゃんせ

伊予節が江戸に入り替え歌が多く作られた
染井:植木職人が多く住んでいた染井村、現在の駒込のこと
今日か飛鳥:「今日か明日か」の掛詞で、飛鳥山は桜の名所
日暮らし:昔の日暮らしの里、つまり「日暮里」のこと
引け四つ:江戸時代新吉原の遊里で現在の午前0時を称し拍子木で時を知らせた
間夫:ここでは遊女の情夫

 

「蓬莱に聞かばや」

蓬莱に 聞かばや伊勢の 初便り
恋の山田の ひと踊り
茶汲みおなごの 前垂れに
結ぶご縁の 神垣や
相の山々 言の葉も
所変われば 品変わる
ほんに嬉しい けんしさん
ヨウマ 逢ったぞえ
置きなはれ 今宵しのばば
チョット背戸まで ござれなんもし
すかんたらしい 
山田(ようだ)訛りの 可愛ゆらし

この唄は「炭俵集」に載った芭蕉の句「蓬莱に聞かばや 伊勢の初便り」を枕言葉に、伊勢の茶汲み女の恋を唄ったもの
山田のひと踊り:名物の伊勢音頭の事
伊勢音頭=伊勢国古市(ふるいち)の遊里で唄われた俗謡
ご縁の板垣:伊勢神宮の神垣
神垣(かみがき)=神社の周囲の垣
相の山:宇治と山田との間にある坂
けんしさん:この地方の方言で江戸でいう主さん 恋仲という意味にも用いられ、誰さんと誰さんは「けんし」という言葉が用いられている
山田訛り:「ヨウマ逢ったぞえ」「おきなはれ」「なぁもし」「すかんたらしい」もみなこの地方の方言で、山田を「ようだ」と呼んでいる

 

「紅葉の橋」

紅葉の橋の たもとから
袖を垣根の ことづてに
ちょっと耳をば かささぎの
霜もいつしか 白々と
積もる程なを 深くなる
雪をめぐらす 舞の手や
ヨイヨイヨイヨイ ヨイヤサ

明治12年7月16日、米国前大統領のグラント将軍を新富座の芝居鑑賞に招待し、その大切りに登場したのが各花柳界から選りすぐられた百人の芸妓だった
アメリカ国旗の肌ぬき姿で惣踊りに用いられた曲がこの「紅葉の橋」です
作詞は河竹黙阿弥、作曲は二世杵屋正次郎、振り付けは花柳寿輔、歌詞は紅葉の橋に立った若い芸者が、長い袖を垣根のようにして(他人に聞かれないように)好きな人に秘かな思いをささやく 秋もいつしか去って霜の季節となり霜が深くなる程に彼女の思いもつのっていくといった内容です

 

「米山くずし」

一、笠を手に持ち 皆さんさらば
  長いお世話に ササなりました

二、箱根八里は 馬でも越すが
  越すに越されぬ ササ大井川

三、わしとお前は 松露ときのこ
  出たら逢いましょ ササ小松山

新潟県民謡の「米山甚句」の一節を取り入れて作られた俗曲
昭和20年頃「藤本二三吉」によっ
て唄いだされた

 

「雪のだるま」

一、雪の達磨に 炭団の目鼻
  溶けてながれて 炭衣

二、行きに寄ろうか 帰りにしよか
  ならば行きにも 帰りにも

三、箱根八里の 落ち葉を屋根に
  乗せて三島へ 戻り籠

炭団:炭の粉を丸めかためた燃料
炭衣:墨染めの衣ように見える

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「浅くとも」

一、浅くとも 清き流れの かきつばた 飛んで行き来の 編み笠を
  覗いて来たか 濡れ燕 顔が見とうは ないかいな

二、声も無く 姿も見えぬ 垣根越し 文箱に添えし 花菖蒲
  恋した露が うらめしい 何故に逢いには 来ぬかいな

杜若(かきつばた):アヤメ科多年草花菖蒲に似ている 季語(初夏)
杜若咲く吉原の廓風景を唄ったもの

 

「薄墨」

薄墨に
書く玉章の 思いして 雁鳴き渡る 宵闇に
月影ならで 主さんに 焦がれて 愚痴な畳算
思い廻して ままならぬ 早く苦界を候かしく

玉章(たまずさ):玉梓(たまあずさ)の約 玉は美称 古代手紙を梓の木などに結びつけて使者が持参した 手紙、消息、ふみ
畳算(たたみざん):かんざしやキセル等を畳の上に落とし、その落ちた所から畳の編み目を端まで数えて、その半丁(奇数偶数)の数で吉凶を占うもの
苦界:年季契約にしばられる遊女の境遇
かしく:カシコの転 女性の手紙の終りにつける語句

 

「うそとまこと」

うそとまことの 二瀬川 騙されぬ気で 騙されて
末は野となれ 山となれ わしが思いは 君故ならば
三つ又川の 舟の内 心のたけを 御察し

三股川(みつまたがわ):隅田川

 

「裏の背戸屋」

一、裏の背戸屋に チョット柿植えて 柿植えて カラスの来るように
  柿植えて カラスとまらかして オッカカノカ カッカッカ・・・

二、裏の背戸屋に チョット竹植えて 竹植えて 雀の来るように
  竹植えて 雀とまらかして オッチュチュノチュ チュッチュ・・

三、裏のお庭に チョット梅植えて 梅植えて ウグイスの来るように
  梅植えて ウグイスとまらかして ホーホケキョ ホッホッホッホホケキョ

四、裏の背戸屋に チョット柿植えて 柿植えて おサルさんの来るように
  柿植えて おサルとまらかして オッキャキャノキャ キャッキャ・・

背戸(せど):家の後ろ、裏 背戸屋=他の家の裏手にある家

 

「かっぽれ」

かっぽれかっぽれ ヨーイトナ(ハヨイヨイ) 
沖の暗いのに白帆がサー見ゆる(ハヨイトコリャサ)
あれは紀伊の国 ヤレコノコレワイノサ(ハヨイトサッサッサー)
みかん舟じゃエ(サテ)みかん舟じゃサー見ゆる(ハヨイトコリャサ)
あれは紀伊の国 ヤレコノコレワイノサ(ハヨイトサッサッサー)みかん舟じエ
(ンサテ)豊年じゃ万作じゃ(ンサテ)明日は旦那の稲刈りに(ンサテ)
小束にからげて チョイト投げた 投げた(サッサー)枕に 投げた枕に科は無い
おせせのこれわいさ 尾花に穂が咲いた コノ妙かいな(ンサテ)
ねんねこせ ねんねこせ(ンサテ)ねんねのお守りは どこ行った
(ンサテ)あの山越えて 里行った(ンサテ)お里のお土産に 何貰った
(ンサテ)でんでん太鼓に 笙の笛
寝ろてばよ 寝ろてばよ 寝ろてば 寝ないのか この子はヨ

かっぽれ:由来については事業に成功した紀伊国屋文左右衛門の帰国を祝う女達が「かっぽれ」又は「私ゃお前に活惚れた(かっぽれた)」
     という言葉に基づくという説や、イタリアの古舞踊「カーボレソ」の移植との説もあるが定説はない
紀伊国屋文左衛門:江戸中期の豪商 紀伊の人
     風浪を冒してミカンを江戸に輸送し、また材木商として江戸の大火に木曽の木材を買い占め数年で巨万の財産を積み豪遊して紀文大尽と称された

 

「川竹」

川竹の 浮名を流す 鳥さえも
つがい離れぬ おし鳥の なかに立つ月 すごすごと
別れの辛さに 袖絞る ほんに辛気な ことじゃいな

川竹:川辺に生えている竹のこと その先が垂れ下がり常に川の水に流せれて浮いたり沈んだりしているので、
   これを浮き沈みの定まらない遊女の境遇に例えたもの
浮名(うきな):男女の情事のうわさ
すごすご:気落ちして元気がないさま また、元気なくその場をたち去るさま
辛気:じれったくいらいらする事

 

「草の芽」初代藤本琇丈・作詞作曲

一、草の芽の 便り聞いたか 土筆の坊や
  春を知らせに 袴をはいて

二、草の芽に 香りたずねて お堀の鯉が
  蓮にほほよせ 尾をひらひらと

三、草の芽は 菫たんぽぽ レンゲにあざみ
  せりに菖蒲に よもぎにはこべ

 

「さいこどん節」

一、恋の痴話文ナー ネズミにひかれ 猫をたのんで 取りにやる
  ※ズイトコキャ イワイデモ カマコッタナイ
   サイコドンドン サイコドンドン サイコドンドン ササ サイコドンドン

二、羅生門よりナー 晦日が恐い 鬼が金札 取りに来る

三、想えその文ナー 何処から来たの 想うお方の 所から

痴話文:相手に恋慕の情を書いて送る手紙・恋文
はやし言葉:意味は分かりませんが言葉が面白いので明治中頃に流行し、後に「どんどん節」に発展したとかしないとか?

 

「四季の唄」

春、春はうれしや 二人揃って花見の酒 庭の桜に朧月
  それを邪魔する雨と風 チョイト咲かせて また散らす

夏、夏はうれしや 二人揃って鳴海の浴衣 団扇片手に夕涼み
  雲が悋気で月隠す チョイト螢が 身を焦がす

秋、秋はうれしや 二人揃って月見の窓 色々話を菊の花
  しかと分からぬ主の胸 チョイト私が 気を紅葉

冬、冬はうれしや 二人揃って雪見の酒 障子開くれば銀世界 
  話も積もれば雪も積む チョイト解けます 炬燵中 ハヒヤヒヤ

鳴海:鳴海絞り 鳴海付近に産する絞り染め 有松絞り
悋気:嫉妬、やきもち

 

「すととん節」

一、ストトン ストトンと通わせて 今更いやとは 胴欲な
  いなやら いやだと最初から 言えばストトンで 通やせぬ ※ストトンストトン

二、ストトン ストトンと戸を叩く 主さん来たかと 出てみれば
  そよ吹く風に だまされて 月にはずかし 我が姿 ※

三、向こう通る ハイカラ美人 横目でチョクチョク 僕を見る
  こいつぁてっきり おいでだと よく見りゃ何だい やぶにらみ ※

四、あなたみたいな いい男 私みたいな お多福が
  提灯釣り鐘 釣り合わぬ 見捨てられても 無理はない ※

胴欲:貪欲(どんよく)の転 非常に欲が深いこと ひどくむさぼること むごいこと 非道なこと

 

「竹になりたや」

一、竹になりたや 紫竹竹 八竹竹
  あだな按摩さんが ピピピピ~ 竹の笛 ピーピッピ

二、本所五ツ目の 五百羅漢のお堂を廻れば
  粋な羅漢さんが 陰気に陽気に笑い顔 通人もオホン いるよ

三、いっちくたっちく 竹橋の赤いシャッポの
  兵隊さん 何食っておイモ食って 薩摩食って プププププ プープップ

紫竹:生えた年は緑色で翌年から紫黒色になる真竹の一種 元の太い所は「尺八」中は「笛」先は「筆の軸」となる
本所五ツ目:「五百羅漢寺」当初は本所五ツ目(現在の東京都江東区大島)にあったが、埋め立て地であったためか度々洪水に見舞われて衰退し、
      明治時代に目黒区中目黒の現在地に移転した

 

「露は尾花」

一、露は尾花と 寝たと言う 尾花は露と 寝ぬと言う
  あれ寝たと言う 寝ぬと言う 尾花が穂に出て 現れた

二、月は清水と 寝たと言う 清水は月と 寝ぬと言う
  あれ寝たと言う 寝ぬと言う 月は田毎に 現れた

三、雁は月夜を 粋と言う 尾花は月を 野暮と言う
  あれ粋と言う 野暮と言う 恋は野暮さえ 粋となる

尾花:秋の七草の一つ 正確に言うとススキの穂先にある黄褐色の花穂で、これがふさふさとして獣の尾に似ているところからこの名前が生まれました
   歌詞の内容は露を男性尾花を女性に例えて唄ったものでしょう
田毎(たごと)の月:小さく区切った水田の一つ一つに映る月のこと

 

「初音聞かせて」

初音聞かせて 春告げ鳥や 人の心も 白梅の
かごとがましき 嬉し泣き エーエじれったい
恋が浮き世か 浮き世が恋か ちょっと一筆 懸想文

初音:鳥や虫のその年その季節の最初の鳴き声 特に、ウグイスの鳴き声にいう
かごとがましき:かごとがまし=いかにも恨みがましい
懸想文:懸想=異性に思いをかけること 恋慕 懸想文=恋文・ラブレター

 

「花は上野」

花は上野か 染井のつつじ 今日か飛鳥と 日暮らしの
君に王子の 狐穴から いろはの女郎衆に 招かれて
うつらうつらと 抱いて根岸の 身代わり地蔵を 横に見て
吉原五丁 廻れば 引け四つ過ぎには 間夫の客 上がりゃんせ

伊予節が江戸に入り替え歌が多く作られた
染井:植木職人が多く住んでいた染井村、現在の駒込のこと
今日か飛鳥:「今日か明日か」の掛詞で、飛鳥山は桜の名所でした
日暮らし:昔の日暮らしの里、つまり「日暮里」のこと
引け四つ:江戸時代新吉原の遊里で現在の午前0時を称し拍子木で時を知らせた
間夫:ここでは遊女の情夫

 

「蓬莱に聞かばや」

蓬莱に 聞かばや伊勢の 初便り
恋の山田の ひと踊り
茶汲みおなごの 前垂れに 結ぶご縁の 神垣や
相の山々 言の葉も 所変われば 品変わる
ほんに嬉しい けんしさん ヨウマ 逢ったぞえ 置きなはれ
今宵しのばば チョット背戸まで ござれなんもし すかんたらしい
山田(ようだ)訛りの 可愛ゆらし

この唄は「炭俵集」に載った芭蕉の句「蓬莱に聞かばや 伊勢の初便り」を枕言葉に、伊勢の茶汲み女の恋を唄ったもの
山田のひと踊り:名物の伊勢音頭の事 伊勢音頭=伊勢国古市(ふるいち)の遊里で唄われた俗謡
ご縁の板垣:伊勢神宮の神垣 神垣(かみがき)=神社の周囲の垣
相の山:宇治と山田との間にある坂
けんしさん:この地方の方言で江戸でいう主さん 恋仲という意味にも用いられ、誰さんと誰さんは「けんし」という言葉が用いれられている
山田訛り:「ヨウマ逢ったぞえ」「おきなはれ」「なぁもし」「すかんたらしい」もみなこの地方の方言で、山田を「ようだ」と呼んでいる

 

「紅葉の橋」

紅葉の橋の たもとから
袖を垣根の ことづてに ちょっと耳をば かささぎの
霜もいつしか 白々と 積もる程なを 深くなる
雪をめぐらす 舞の手や ヨイヨイヨイヨイ ヨイヤサ

明治12年7月16日、米国前大統領のグラント将軍を新富座の芝居鑑賞に招待し、その大切りに登場したのが各花柳界から選りすぐられた百人の芸妓だった
アメリカ国旗の肌ぬき姿で惣踊りに用いられた曲がこの「紅葉の橋」です
作詞は河竹黙阿弥、作曲は二世、杵屋正次郎、振り付けは花柳寿輔
歌詞は紅葉の橋に立った若い芸者が、長い袖を垣根のようにして(他人に聞かれないように)好きな人に秘かな思いをささやく
秋もいつしか去って霜の季節となり霜が深くなる程に彼女の思いもつのっていくといった内容です

 

「米山くずし」

一、笠を手に持ち 皆さんさらば 長いお世話に ササなりました

二、箱根八里は 馬でも越すが 越すに越されぬ ササ大井川

三、わしとお前は 松露ときのこ 出たら逢いましょ ササ小松山

新潟県民謡の「米山甚句」の一節を取り入れて作られた俗曲 昭和20年頃「藤本二三吉」によって唄いだされた

 

「雪のだるま」

一、雪の達磨に 炭団の目鼻 溶けてながれて 炭衣

二、行きに寄ろうか 帰りにしよか ならば行きにも 帰りにも

三、箱根八里の 落ち葉を屋根に 乗せて三島へ 戻り籠

炭団:炭の粉を丸めかためた燃料
炭衣:墨染めの衣ように見える