端唄俗曲選集(6)

「秋の七草」

一、秋の七草 虫の音に
  鳴かぬ螢が 身を焦がす
  君を松虫 鳴く音も細る
  恋という字を 大切に

二、桔梗 刈萱 女郎花
  萩に恨みの 片枕
  風か君かと よもやの窓に
  尾花 撫子 藤袴

秋の七草:萩・尾花(すすき)・葛・撫子・女郎花・藤袴・朝顔(桔梗とする数え方もある)
松虫:初秋の夜、雄が「チンチロリン」と松風の音が身にしみるように澄んだ声で鳴くので、延喜時代の風流人が松虫と名付けたと言われています
コオロギ科に属しているが、鳴き声ははるかに美しい
松虫はその名から「人をまつ虫」「誰をまつ虫」などと「待つ」という言葉にかけてよく詠まれている

 

「浮気同志」

浮気同志が ついこうなって
ああでもないと 四畳半
湯のたぎるより 音もなく
あれ聞かしゃんせ 松の風

松の風:茶の湯の湯釜のたぎる音 
この唄は茶室での出来事を唄っている

 

「重ね扇」

重ね扇は よい辻占よ
ふたりしっぽり 抱き柏
菊の花なら いつまでも
活けて眺めて いるところ
色も香もある 梅の花

歌舞伎役者の五代目尾上菊五郎とその愛人辻井梅との関係を歌にしたものと言われています「重ね扇」と「抱き柏」は尾上家の紋 「菊」は五代目菊五郎 「色も香もある梅の花」は大阪の辻井梅の名を唄い込んだということになる
辻占:町の辻(四つ角)に立って往来の人の無心の言葉を聞いて事の吉凶を占ったのが始めで、江戸時代には小紙に種々の吉凶を占う言葉を書いたものを「辻占」といって客にさぐり取らせる事が流行した
重ね扇に抱き柏:三代目尾上菊五郎が端午の節句の折に細川候の邸へ参上したとき、殿様から扇に柏餅を二つ載せて出されたのでこれを自分の扇に受けて頂戴した このことを記念して「重ね扇に抱き柏」を尾上家の紋としたものといわれている

 

「香水」

香水の 香り床しき 鬢の毛を
掻き上げしまま 横櫛に
さすや窓もる 月の顔
どれが女か 男やら
わかぬ姿の 梅柳
憎い仲では ないかいな

この唄は清元の「夕立碑春電」にはめ込まれた江戸端唄です
香水:明治5年頃から東京で売り出された洋式の香水
わかぬ姿:朧夜で女(柳)か男(梅)かはっきりしないこと
憎い仲:人から羨まれるほどの仲

 

「酒屋のおでこ」

一、うちの隣の 酒屋のおでこ
  いやにこの頃 めかしだし
  紅やおしろい 塗りたてて
  たまらない あざ笑い
  オホホ エヘヘ

二、うちの向かいの 米屋の丁稚
  いやにこの頃 色気づき
  雪駄ちゃらちゃら 音たてて
  たまらない あざわらい
  オホホ エヘヘ

酒屋のおでこ:額の出っ張った娘の愛称
たまらない:おかしくてたまらないような笑い
あざ笑い:馬鹿にしたような笑い方

 

「五月雨(空)」

五月雨や
空に一声 ほととぎす
晴れて漕ぎ出す 木母寺の
関屋離れて 綾瀬口
牛田の森を 横に見て
越ゆる間もなく 堀切の
咲くや五尺の あやめ草

歌詞は五月雨と名付けられた梅雨がやっと晴れ間を見せたので、向島の水神あたりから船を出し、隅田川を堀切の菖蒲園まで漕ぎ上る中、一声ホトトギスの声が聞こてきたといった内容です「木母寺」「関屋」「綾瀬」「牛田の森」「堀切」は地名で現在も残っています作詞者は不明で、芭蕉の「時鳥 啼くや五尺の あやめ草」を唄い出しと、結びに分けてつくった名歌詞です

 

「せつほんかいな」

獅子は せつほんかいな
獅子は食わねど 獅子食い食いと
雨や霰や 甘露梅
ぞろりやぞろりや ぞんぞろり
目出度いな 目出度いな
橋の せつほんかいな
橋の欄干に 腰うちかけて
向こうはるかに 見渡せば
弁天松島 小松島
キュッキュと立ったは
アリャなんじゃ
あれかいな あれかいな
昔々その昔 ずっと昔の大昔
九郎 せつほんかいな
九郎判官 義経様は
静御前を 連れて逃げ
夜も昼も 抱いて寝て
よんぼりよんぼり よよんぼり
烏帽子 狩衣 烏帽子衣
ぞろりやぞろりや ぞんぞろり
目出度いな 目出度いな

せつほんかいな:踊りの立方がいう囃子詞 酒席で踊りと共に披露される御祝儀曲
甘露梅:青梅をシソの葉で包み砂糖漬けにした食品

 

「空ほの暗き」

空ほの暗き 東雲に
木の間隠れの ほととぎす
鬢のほつれを 掻き上げる
櫛の雫か しずくが露か
濡れてうれしき 今朝の雨

空ほの暗き:清元「雁金」の一節をそのまま採って作られたもの
「空ほの暗き東雲に 木の間隠のほととぎす」:まだほの暗い夜明けの空にホトトギスの啼く声を聞きながら、鬢のほつれを掻き上げるといった所を唄ったもの
東雲:一説にいう「め」は原始的住居の明かり取りの役目を果たしていた網代(あじろ)様の粗い網目のことで、篠竹を材料としてつくられた「め」が「篠の目」と呼ばれた これが明かり取りそのものの意味となり、転じて夜明けの薄明かり、更に夜明けそのものの意味となった 明け方、暁

 

「佃流し」
小野金次郎:作詞・山田抄太郎:作曲

一、意地を命の 深川育ち
  浮き名二人を 筏にのせて
  初手は気まぐれ いつしかに
  誠あかす 佃の流し節

二、浮き世さらさら さらりと捨てて
  ままよ明日は あの潮まかせ
  愚痴と笑おうが 未練と言おうが
  忘れられない 身はひとつ

初手:もと・囲碁、将棋で最初の手の意味 手始め、最初

 

「名古屋甚句」

一、ハァ夕べ横町でサ
  先のお嬶に 出逢うてね
  お嬶まめなか 達者なか
  まめであろうが あるまいが
  三年以前に ひまもろて
  今では大事な 人がある
  お前さんの お世話にゃヨーホホ
  アーなりゃしまいよ

二、ハァ夕べ横町でサ
  先の旦那に 出逢うてね
  旦那まめなか 達者なか
  まめであろうが あるまいが
  三年以前に ひま出して
  今では可愛いい 人がある
  お前なんかのお世話にゃヨーホホ
  アーなりゃしまいよ

三、ハァ娘十七、八サ
  嫁入り ざりかね
  たんす長持 はさみ箱
  これほど持たせて やるからは
  必ず戻ると 思うなよ
  もうし母さん そりゃ無理じゃ
  西が曇れば 雨となり
  東が曇れば 風となる
  千石積んだる 船でさえ
  追手が変われば ヨーホホ
  アー出て戻るヨ

追手:追い風、順風

 

「はすの葉」

はすの葉に たまりし水は
釈迦の涙か 有難や
ところへ蛙が ピョコと出て
それは私の シイで候

はすの葉:仏教界では「蓮華」と呼ばれ極楽浄土に咲く花とされている 蓮の花に浮く露の玉は釈迦の涙として仏教徒の尊崇を集めている 
これを蛙のしい(尿)としたこの作者の構想の妙は一つの哲理さえ観じさせます

 

「初春」

初春や
門に松竹 伊勢海老や
〆もダイダイ 裏白の
鳥追う声も うららかに
悪魔払いの 獅子舞や
弾む毛毬の 拍子よく
つくばねついて
一、二、三、四つ世の中 良い年と
いつも変わらぬ のし昆布

鳥追い:門付けの一つ 
江戸時代、年始に女太夫が新服をつけ編み笠をかぶって鳥追い唄を三味線を弾きながら唄い、家の門に立って合力を乞うた
合力:金銭や物品を与えて助ける事
つくばね:追羽根(おいばね)のはね、羽子
二人以上で一つの羽根を羽子板でつきあう新年の遊び、羽根つき

 

「文弥くずし」

一、土手の蛙の 鳴く声聞けば
  廓通いが やめらりょか

二、雪をかぶって 寝ている笹を
  憎や雀が ゆり起こす

三、羅生門より 晦日が恐い
  憎や金札 取りに来る

四、固いようでも 油断はならぬ
  溶けて流るる 雪だるま
 ※いっぱい飲め飲め とろんけん
  ちんちもりかりか
  まろまんのまん

文弥くずし:大阪の文弥節を取り入れて作られた俗曲
文弥節:延宝年間(1673~80年)に大阪の初代岡本文弥が始めた 義太夫節の発生直前の古浄瑠璃 現在も佐渡(文弥人形)など地方芸能として残っている
羅生門:京都の羅生門で渡辺綱が悪鬼の片腕を斬りとったという故事をもとに晦日の鬼(借金取り)の怖さを唄ったもの

 

「柳の雨」
長田幹彦:作詞
「唐人お吉の唄」
西条八十:作詞・佐々紅華:作曲

行く水に 
雨はそぼ降る 河岸の灯よ
傘が二つに 人影も
更けてさみしき あの流し
 駕籠で行くのは お吉じゃないか
 下田港の 春の雨 
 泣けば椿の 花が散る
アレ糸の音も 忍び音に
柳は泣いて いるわいな

この唄は昭和7年小唄勝太郎の唄でビクターより発売されました曲の前後に江戸端唄の「夕暮」、アンコに「唐人お吉の唄」を入れて作られ当時は大変流行しました

 

「夕立や田を」

夕立や 
田を三囲(みめぐり)の 神ならば
葛西太郎の 洗い鯉
酒(ささ)がこうじて 狐拳
ほんに全盛な ことじゃえ
堀の船宿 竹屋の人
竹屋の人と 呼子鳥(よぶことり)

宝井其角(たからいきかく)の「夕立や 田を三囲の 神ならば」の句で始まり向島の三囲神社に近い川魚が自慢の料亭「葛西太郎」で豪遊する江戸っ子達を唄ったもの
全盛なことじゃえ:景気の良いこと勢いに乗ってこれから吉原へ繰り出そうと、竹屋の渡しに来て「オーイ竹屋の人ー」と、対岸の渡し船に呼びかけたこれは山谷堀の船宿の竹屋が渡し船を請け負っていたので、こう呼んだもの
呼子鳥(よぶことり):郭公(かっこう)又は、閑古鳥で、船を呼ぶことと掛けたもの

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「秋の七草」

一、秋の七草 虫の音に 鳴かぬ螢が 身を焦がす
  君を松虫 鳴く音も細る 恋という字を 大切に

二、桔梗 刈萱 女郎花 萩に恨みの 片枕
  風か君かと よもやの窓に 尾花 撫子 藤袴

秋の七草:萩・尾花(すすき)・葛・撫子・女郎花・藤袴・朝顔(桔梗とする数え方もある)
松虫:初秋の夜、雄が「チンチロリン」と松風の音が身にしみるように澄んだ声で鳴くので、延喜時代の風流人が松虫と名付けたと言われています
   コオロギ科に属しているが、鳴き声ははるかに美しい
   松虫はその名から「人まつ虫」「誰をまつ虫」などと「待つ」という言葉にかけてよく詠まれている

 

「浮気同志」

浮気同志が ついこうなって ああでもないと 四畳半
湯のたぎるより 音もなく あれ聞かしゃんせ 松の風

松の風:茶の湯の湯釜のたぎる音
    この唄は茶室での出来事を唄っている

 

「重ね扇」

重ね扇は よい辻占よ ふたりしっぽり 抱き柏
菊の花なら いつまでも 活けて眺めて いるところ
色も香もある 梅の花

歌舞伎役者の五代目尾上菊五郎とその愛人辻井梅との関係を歌にしたものと言われています
「重ね扇」と「抱き柏」は尾上家の紋 「菊」は五代目菊五郎 「色も香もある梅の花」は大阪の辻井梅の名を唄い込んだということになる
辻占:町の辻(四つ角)に立って往来の人の無心の言葉を聞いて事の吉凶を占ったのが始めで
   江戸時代には小紙に種々の吉凶を占う言葉を書いたものを「辻占」といって客にさぐり取らせる事が流行した
重ね扇に抱き柏:三代目尾上菊五郎が端午の節句の折に細川候の邸へ参上したとき、殿様から扇に柏餅を二つ載せて出されたのでこれを自分の扇に受けて頂戴した
        このことを記念して「重ね扇に抱き柏」を尾上家の紋としたものといわれている

 

「香水」

香水の 香り床しき 鬢の毛を
掻き上げしまま 横櫛に さすや窓もる 月の顔
どれが女か 男やら わかぬ姿の 梅柳
憎い仲では ないかいな

この唄は清元の「夕立碑春電」にはめ込まれた江戸端唄です
香水:明治5年頃から東京で売り出された洋式の香水
わかぬ姿:朧夜で女(柳)か男(梅)かはっきりしないこと
憎い仲:人からうらやまれるほどの仲

 

「酒屋のおでこ」

一、うちの隣の 酒屋のおでこ いやにこの頃 めかしだし
  紅やおしろい 塗りたてて たまらない あざ笑い オホホ エヘヘ

二、うちの向かいの 米屋の丁稚 いやにこの頃 色気づき
  雪駄ちゃらちゃら 音たてて たまらない あざわらい オホホ エヘヘ

酒屋のおでこ:額の出っ張った娘の愛称
たまらない:おかしくてたまらないような笑い
あざ笑い:馬鹿にしたような笑い方

 

「五月雨(空)」

五月雨や 空に一声 ほととぎす
晴れて漕ぎ出す 木母寺の 関屋離れて 綾瀬口
牛田の森を 横に見て 越ゆる間もなく 堀切の
咲くや五尺の あやめ草

歌詞は五月雨と名付けられた梅雨がやっと晴れ間を見せたので、向島の水神あたりから船を出し、
隅田川を堀切の菖蒲園まで漕ぎ上る中、一声ホトトギスの声が聞こてきたといった内容です
「木母寺」「関屋」「綾瀬」「牛田の森」「堀切」は地名で現在も残っています
作詞者は不明で、芭蕉の「時鳥 啼くや五尺の あやめ草」を唄い出しと、結びに分けてつくった名歌詞です

 

「せつほんかいな」

獅子は せつほんかいな 獅子は食わねど 獅子食い食いと 雨や霰や 甘露梅
ぞろりやぞろりや ぞんぞろり 目出度いな 目出度いな

橋の せつほんかいな 橋の欄干に 腰うちかけて
向こうはるかに 見渡せば 弁天松島 小松島
キュッキュと立ったは アリャなんじゃ あれかいな あれかいな
昔々その昔 ずっと昔の大昔

九郎 せつほんかいな 九郎判官 義経様は
静御前を 連れて逃げ 夜も昼も 抱いて寝て
よんぼりよんぼり よよんぼり 烏帽子 狩衣 烏帽子衣
ぞろりやぞろりや ぞんぞろり 目出度いな 目出度いな

せつほんかいな:踊りの立方がいう囃子詞 酒席で踊りと共に披露される御祝儀曲
甘露梅:青梅をシソの葉で包み、砂糖漬けにした食品

 

「空ほの暗き」

空ほの暗き 東雲に
木の間隠れの ほととぎす 鬢のほつれを 掻き上げる
櫛の雫か しずくが露か 濡れてうれしき 今朝の雨

空ほの暗き:清元「雁金」の一節をそのまま採って作られたもの
「空ほの暗き東雲に 木の間隠れのほととぎす」:まだほの暗い夜明けの空にホトトギスの啼く声を聞きながら、鬢のほつれを掻き上げるといった所を唄ったものである
東雲:一説にいう「め」は原始的住居の明かり取りの役目を果たしていた網代(あじろ)様の粗い網目のことで、篠竹を材料としてつくられた「め」が「篠の目」と呼ばれた   これが明かり取りそのものの意味となり、転じて夜明けの薄明かり、更に夜明けそのものの意味となった 明け方、暁

 

「佃流し」小野金次郎:作詞・山田抄太郎:作曲

一、意地を命の 深川育ち 浮き名二人を 筏にのせて
  初手は気まぐれ いつしかに 誠あかす 佃の流し節

二、浮き世さらさら さらりと捨てて ままよ明日は あの潮まかせ
  愚痴と笑おうが 未練と言おうが 忘れられない 身はひとつ

初手:もと・囲碁、将棋で最初の手の意味 手始め、最初

 

「名古屋甚句」

一、ハァ夕べ横町でサ 先のお嬶に 出逢うてね
  お嬶まめなか 達者なか まめであろうが あるまいが
  三年以前に ひまもろて 今では大事な 人がある
  お前さんの お世話にゃヨーホホ アーなりゃしまいよ

二、ハァ夕べ横町でサ 先の旦那に 出逢うてね
  旦那まめなか 達者なか まめであろうが あるまいが
  三年以前に ひま出して 今では可愛いい 人がある
  お前なんかの お世話にゃヨーホホ アーなりゃしまいよ

三、ハァ娘十七、八サ 嫁入りざりかね
  たんす長持・はさみ箱 これほど持たせて やるからは
  必ず戻ると 思うなよ もうし母さん そりゃ無理じゃ
  西が曇れば 雨となり 東が曇れば 風となる
  千石積んだる 船でさえ 追手が変われば ヨーホホ アー出て戻るヨ

追手:追い風、順風

 

「はすの葉」

はすの葉に たまりし水は 釈迦の涙か 有難や
ところへ蛙が ピョコと出て それは私の シイで候

はすの葉:仏教界では「蓮華」と呼ばれ極楽浄土に咲く花とされている
     蓮の花に浮く露の玉は釈迦の涙として仏教徒の尊崇を集めている
     これを蛙のしい(尿)としたこの作者の構想の妙は一つの哲理さえ観じさせます

 

「初春」

初春や 門に松竹 伊勢海老や
〆もダイダイ 裏白の 鳥追う声も うららかに
悪魔払いの 獅子舞や 弾む毛毬の 拍子よく
つくばねついて 一、二、三、四つ世の中 良い年と
いつも変わらぬ のし昆布

鳥追い:門付けの一つ 江戸時代、年始に女太夫が新服をつけ編み笠をかぶって鳥追い唄を三味線を弾きながら唄い、家の門に立って合力を乞うたもの
合力:金銭や物品を与えて助けること
つくばね:追羽根(おいばね)のはね、羽子 二人以上で一つの羽根を羽子板でつきあう新年の遊び、羽根つき

 

「文弥くずし」

一、土手の蛙の 鳴く声聞けば 廓通いが やめらりょか

二、雪をかぶって 寝ている笹を 憎や雀が ゆり起こす
 
三、羅生門より 晦日が恐い 憎や金札 取りに来る

四、固いようでも 油断はならぬ 溶けて流るる 雪だるま

※いっぱい飲め飲め とろんけん ちんちもりかりか まろまんのまん

文弥くずし:大阪の文弥節を取り入れて作られた俗曲
文弥節:延宝年間(1673~80年)に大阪の初代岡本文弥が始めた義太夫節の発生直前の古浄瑠璃 現在も佐渡(文弥人形)など地方芸能として残っている
羅生門:京都の羅生門で渡辺綱が悪鬼の片腕を斬りとったという故事をもとに晦日の鬼(借金取り)の怖さを唄ったもの

 

「柳の雨」長田幹彦:作詞  「唐人お吉の唄」西条八十:作詞・佐々紅華:作曲

行く水に 雨はそぼ降る 河岸の灯よ
傘が二つに 人影も 更けてさみしき あの流し

 駕籠で行くのは お吉じゃないか
 下田港の 春の雨
 泣けば椿の 花が散る

アレ糸の音も 忍び音に 柳は泣いて いるわいな

この唄は昭和7年小唄勝太郎の唄でビクターより発売されました
曲の前後に江戸端唄の「夕暮」、アンコに「唐人お吉の唄」を入れて作られ当時は大変流行しました

 

「夕立や田を」

夕立や 田を三囲(みめぐり)の 神ならば
葛西太郎の 洗い鯉 酒(ささ)がこうじて 狐拳
ほんに全盛な ことじゃえ 堀の船宿 竹屋の人
竹屋の人と 呼子鳥(よぶことり)

宝井其角(たからいきかく)の「夕立や 田を三囲の 神ならば」の句で始まり
向島の三囲神社に近い川魚が自慢の料亭「葛西太郎」で豪遊する江戸っ子達を唄ったもの
全盛なことじゃえ:景気の良いこと
勢いに乗ってこれから吉原へ繰り出そうと、竹屋の渡しに来て「オーイ竹屋の人ー」と、対岸の渡し船に呼びかけた
これは山谷堀の船宿の竹屋が渡し船を請け負っていたので、こう呼んだもの
呼子鳥(よぶことり):郭公(かっこう)又は、閑古鳥で、船を呼ぶことと掛けたもの