都々逸

「あ」

逢いたかないかと 聞かれるたびに 逢いたかないよと 眼に涙
あいとあの時 返事をせねば 今の苦労は あるまいに
逢えば手軽に 脱がせた羽織 なぜにこの様に 着せにくい
逢えばふさぐし 逢わねば恨む 何でこんなに なるんだろう
逢えば別れと さて知りながら 帰しともなや 雪の朝
青い眼鏡は だてには懸けぬ 下がった目尻を 隠すため
諦めましたよ どう諦めた 諦められぬと 諦めた
呆れかえるよ 月日の速さ 年季が明くれば 顔にシワ
挙げた拳に 身をなげ島田 ゆうておくれよ 拝みます
朝顔が 頼りし竹にも 振り放されて うつむきゃ涙の 露が散る
朝咲いて 四つにしおれる 朝顔さえも 思い思いの 色に咲く
仇な桜に 心の駒の 狂う廓の 夕景色
後は涙で 暮らそとままよ 明日は笑顔で 別れたい
あの人の どこが良いのと 聞かれたならば どこが悪いと 問い返す
逢わねば逢わぬで 苦労に苦労 逢えば逢ったで また苦労
行燈吹き消し あれ化け物と いうて取り付く 主の膝

「い」

云うておくれと 言伝頼む 泣いて暮らすと 言伝を
言えば恨みの 数々あれど 言わぬ心を 察っしゃんせ
碇の降ろせぬ お前の浮気 わたしゃ心に かかり舟
粋な風には つい解けやすい 包むふくさの こむらさき
粋な刈萱 あだめく桔梗 そして風情な 女郎花
粋な桜の 一枝よりも 地味な松葉の 末長く
幾度松虫 身はキリギリス またもヒグラシ 啼くばかり
幾夜寝覚めの さびしい浦に 友呼ぶ千鳥の 泣き明かす
いくら私が お多福じゃとて 出雲で結んだ 縁じゃもの
意見聞く時ゃ 頭を下げな 下げりゃ意見が 上を越す
意見されれば ただうつむいて 聞いていながら 思い出す
意見知られて うつむきながら また逢う夜を 畳算
意見の意の字を 分析すれば 義理を立てよと 云う心
石の臼ほど 互いに丸く 添うて離れぬ 堅い仲
磯のアワビを 九つ集め ほんにくがいの 片思い
市松人形と 私のからだ 顔で笑って 腹で泣く
一里二里なら 便りも聞けよが 五里と隔てりゃ 風だより
いっそ身体も 手紙に封じ 人目の関所を 通したい
いっそ聞こうか いや聞くまいか たたむ羽織に 酒のあと
いっそ切れたら 苦労は無いと 云うは迷わぬ 先の事
言ってしまおか 言わずにおこか 思案半ばの もつれ髪
いつの頃より つい馴れ初めて 今じゃ思いの 種となる
井戸の蛙と そしらばそしれ 花も散り込む 月もさす
糸のもつれに 手毬もやせて 袖に重たい 恋の唄
命は立派に 献上博多 見込んで結んだ 男帯
今逢っちゃ 為にならぬと 云うその人に 礼を云ったり 恨んだり
今逢うて すぐに惚れたが どうして悪い 思案してなら 惚れませぬ
今か今かと 入り舟待って 乗り出す廻しの 床の海
今更苦労に 痩せたと言えぬ 命までもと 言った口
今に別れて 苦労はすれど 末を楽しむ 気はひとつ
今の苦労は 苦にせまいもの 雪の下にも 花が咲く
今の不実を 思うにつけて 過ぎし情けが 愚痴の種
今まで通りの 化粧の道具 それに増えたが 金道具(かねどうぐ)
今別れ 道の半町も 行かないうちに こうも逢いたく なるものか
嫌と云うのに 無理押し込んで 入れて鳴かせる 籠の鳥
嫌なお客の 親切よりも 好いたお方の 無理が良い
入れておくれよ 痒くてならぬ 私一人が 蚊帳の外
色香匂へど 嵐が吹けば どこへ散るやら 里の花
色気離れた 墨絵でさえも 濃いと薄きが あるわいな
色で迷わせ 味では泣かせ ほんにあなたは 唐辛子
色にほだされ 取っては見たが 嫌になったよ 渋い柿
いろにゃ栄誉も お金もいらぬ あてにするのは 主ばかり
色のいの字に よく似た姿 二人ふざけて いるところ
いろの手加減 炬燵でおぼえ 雪もうれしき 新枕
いろは売るとも 心は誠 泥の中にも 蓮の花
言わず語らず 語らず言わず 実と実との 闇試合
岩間隠れの つつじでさえも 燃ゆる思いの 色に咲く

「う」

上を思えば 限りが無いと 下を見て咲く 百合の花
嘘か誠か さっぱり知れぬ 先でも知るまい 我が心
嘘で固めし 手紙の文句 欺しまいらせ 候かしこ
団扇使いも お客によりて あおぎ出すのと 招くのと
梅の匂いを 桜に込めて しだれ柳に 咲かせたい
嬉しまぎれに つい惚れすぎて 後でなおます 物思い
浮気ウグイス 梅をばじらし わざと隣の 桃で鳴く

「お」

逢うて嬉しい 楽しみなけりゃ 別れて悲しい こともない
逢うて嬉しい 笑いもいつか 朝にゃ涙の 種となる
お月さまさえ 泥田の水に 落ちて行く夜の 浮き沈み
男と云う字を 分析すれば 丹田開拓 する力
お前は井の水 私はつるべ 深い情けを 汲んで知る
おまはんの 返事一つで この剃刀が のどへ行くやら 眉へやら
重い身体を 身に引き受けて 抜くに抜かれぬ 腕枕
思い出すまい もう思うまい と思えば思わず 思い出す
思い出すよじゃ 惚れよがうすい 思い出さずに 忘れずに
思い疲れて ついうとうとと 眠りゃまた見る 主の夢
思う心は 届かぬけれど なぜか浮き名は 立ちやすい
思うまいぞえ もう思わぬと 思えば思わず 思い出す
思うまいぞえ 思うたとても どうせ添われる 身ではない
親の意見と なすびの花は 千に一つの 無駄もない
およしと云われりゃ 尚また妙に 折ってみたいよ あの花を
およそ世間に せつないものは 惚れた三文字に 義理の二字
女と云う字を 分析すれば とせはなれぬ くの一字 

「か」

帰るなら 帰ってごらんよ あの川端の 柳のあたりへ 化けて出る
香りゆかしき 蕾の梅も やがて開けば 散る浮き世
顔見りゃ苦労を 忘れるような 人がありゃこそ 苦労する
影じゃのろけて 笑われながら 逢えば嫌みや 愚痴ばかり
籠に飼われて 泣く虫よりも わたしゃ気ままな 野の蛍
火事が無くなりゃ 半鐘はいらぬ とかく焼けるは 色の道
堅いようでも 見かけにゃよらぬ 雪に倒るる 庭の松
堅いようでも 油断はならぬ 解けて流るる 雪だるま
門の鳴子が 夜風に揺れて もしや主かと 胸騒ぎ
彼の人が 何処が良いかと 尋ねる人に 何処が悪いと 問い返す

「き」

桔梗首振る ススキは招く 秋の花野の 面白や
来ては管まく 小雀さえも ささの上なら 憎くない
灸も薬も 何効くものか わたしゃ逢いたい この病
義理で隣に 盃さして 目元で詫びする 好きの前
義理の刃で 切られたけれど 今じゃうれしい 元の鞘
切れてみやがれ ただ置くものか ワラの人形に 五寸釘

「く」

草の葉末の 露ではないが もろく見えても なぜ落ちぬ
櫛は縁切り かんざしゃ形見 指輪は当座の 縁つなぎ
口でけなして 心でほめて 人目忍んで 見る写真

「け」

芸者さす様な 邪険な親が 浮気するなも 良く出来た
今朝も今朝とて お部屋の小言 寝言とお尻に 気をつけろ
下駄の歯形に 未練を残す つらい別れの 雪の朝
権利の義務のと 云わんすけれど 色は議論じゃ 出来はせぬ

「こ」

恋し恋しと 書いては丸め 外に書く字の 無い悩み
恋という字を 分析すれば いとしいとしと 言う心
恋に焦がれて 鳴く蝉よりも 鳴かぬ蛍が 身を焦がす
恋の邪魔すりゃ 烏のように 可愛いと云っても 憎まるる
こうしてこうすりゃ こうなるものを 知りつつ こうしてこうなった
声はすれども 姿は見えぬ ぬしは草葉の キリギリス
焦がれているのに あらまぁ憎い よそへ逸れたか 夏の雨
こぼれ松葉を うらやむような 愚痴な心に 誰がした
これが嘘言う 舌かと思や 噛んでやりたい 時もある
こんな顔でも 女房の世話を してはあれども 来てはない

「さ」

咲いた桜に なぜ駒つなぐ 駒が勇めば 花が散る
竿を差し込み 腰をば伸ばし 入れて気をやる 筏舟
下がった所に 色気を含む 主の目尻と 藤の花
咲くが花かよ 咲かぬが花か 咲かぬ蕾の うちが花
五月雨の ある夜ひそかに 恋路の闇に 主の御見を 松の月

「し」

思案するほど 思案は出ずに たまに出るのは 愚痴ばかり
思案半ばに ランプが消えて 暗くせよとの 辻占か
思案にふさげば ついかんざしの 落ちた所を 畳算
実や誠じゃ 心から好きじゃ 末は女房じゃ そりゃ嘘じゃ
実を嫌って 不実を好いて 儘にならぬも 良く出来た
忍び足して 閨の戸開けて そっと立ち聞く 虫の声
暫しの別れに 鳴海の浴衣 未練涙の 玉しぼり
四本柱の 炬燵の下で 恋の地取りの 指相撲
白鷺が 小首かしげて 二の足踏んで やつれ姿を 水鏡
尻の毛抜かれて 鼻毛を読まれ 眉毛の唾さえ 無駄にした
じれったい程 便りが無いが 試す心が 変わったか
心中しましょか 腹切りましょか 今のはやりで 逃げましょか
真の夜中に ふと目を醒まし どちら向いても 夜具の袂(そで)

「す」

姿優しく 声美しく 鹿にも二つの 角がある
好きで求めた 私の苦労 助ける貴方が いじらしい
好きと嫌いが 一度にくれば ほうき立ったり 倒したり
好きな酒なら 呑むのも良いが 重ねちゃお止しよ お身の毒
好きにゃ嫌われ 嫌いにゃ好かれ 今年ゃ苦労の 年廻り
墨と硯は 仲良いけれど 水のさしよで 薄くなる

「せ」

せかずとお待ちよ 時節が来れば 咲いて見せます 床の梅
世間渡るは 豆腐が手本 豆で四角で やわらかで

「た」

大海の 水を呑んでも 鰯は鰯 泥水呑んでも 鯉は鯉
大胆不敵の 女じゃないか またもその手で だますのか
竹に雀よ 松には鶴よ 梅に鶯 わたしゃ主
たたく水鶏に まただまされて 起きて恥ずかし 我が姿
竜田川 無理に渡れば 紅葉が散るし 渡らにゃ聞かれぬ 鹿の声
竜田吉野も 見る人無けりゃ 花も紅葉も 谷のちり
立てば芍薬 座れば牡丹 歩く姿は 百合の花
例え姑が 鬼でも蛇でも 主を育てた 親じゃもの
例え泥田の 芹にもさんせ こころ洗えば 根は白い
たばこ一本 千両しよとままよ 主の寝たばこ 絶やしゃせぬ
玉簾の 内ぞ床しき あの御所車 恋に隔てが あるものか
便り有るかと 聞かれる度に 捨てられましたと 云う辛さ
誰もいません ばあやと猫と 他に私が 居るばかり

「ち」

丁と張らんせ もし半でたら わしを売らんせ 吉原へ

「つ」

月落烏が 鳴こうとままよ 帰しゃせぬぞえ 今朝の霜
月は傾き 夜は更け渡り 心細さや 独り道
つねりゃ紫 喰いつきゃ紅よ 色で堅めた この体
露にゃ夜ごとに しっぽり濡れて 風につれない 女郎花

「て」

手鍋さげても 添わねばならぬ と云うお方は 主じゃない

「と」

時世時節で 身は落としても 二人離れぬ 散り松葉
土手の芝 人に踏まれて 一度は枯れる 露の情けで よみがえる
虎は千里の 藪さえ越すに 障子一重が ままならぬ

「な」

泣いて居ります 怒っています 怨んじゃいるけど 憎かない
泣いて待つ夜に 更けゆく鐘は 明けの鳥より なお辛い
仲が良いとて 礼儀を欠くな 円いという字も 角がある
鳴くな鶯 暫しの間 凌ぎゃ気楽な 花の世に
泣くもじれるも ふさぐもお前 機嫌直すも またお前
波の音 聞くが辛さに 山家に住めば またも聞こえる 鹿の声

「に」

憎い雨だと 小言を言えど 好いた同志の もやい傘
憎いお前に 私は惚れて 可愛がる人 つい欺す
憎いお前に 私は惚れて 可愛いお方を つい欺す
女房持とは 知ってのことよ 惚れるに加減が なるものか
庭の松虫 音を止めさせて もしや来たかと 胸騒ぎ

「ぬ」

主は今頃 起きてか寝てか 思い出してか 忘れてか
主はさんやの 三日月様よ 宵にちらりと 見たばかり
主は風鈴 わしゃ短冊よ 振られながらも 添い遂げる
主を待つ夜は 月より他に 入れぬ私の 蚊帳の中

「の」

望みある身は 谷間の清水 しばし木の葉の 下潜る
野辺の若草 摘み捨てられて 土に思いの 根を残す
蚤蚊の責めより 女の為に 少しも寝られぬ 晩がある

「は」

灰に書いては 消す男の名 火箸の手前も 恥ずかしい
端唄文句の 口説じゃないが 帰らしゃんすか この雪に
羽織着せかけ 行く先たずね すねて箪笥を 背でしめる
馬鹿にするなよ 以前は花で ウグイス鳴かせた 事もある
恥ずかしいぞえ 牡丹の花を 見に行く私は 鼻が獅子
花活けの 水は濁れど ただ捨てられぬ 一度咲かせた 義理がある
花に浮かれて 来る蝶々も 風が邪魔する 世のならい
花に置くつゆ 小笹のあられ こぼれやすきは わが涙
花にくもりし 心の迷い ひとり思案に 暮れの鐘
花の曇りは 雨にもならで 傘を離さぬ おぼろ月
花も実もある あの朝顔は 枯れた籬(まがき)も 棄てはせぬ
花を折るなら 蕾の間 咲いて嵐の 来ない間に
花を咲かせた 昔を思や 今は涙の 落ち葉掻き
早く逢いたい お顔が見たい 話聞きたい 聞かせたい
腹が立てども また訳聞けば のろい様だが そうかいな
腹を立たせて また笑わせて 嬉しがらせて 泣かすのか
晴れて逢うのは 嬉しいけれど 秋の月とは 気にかかる

「ひ」

久しぶりじゃと 柱に頭 逢いたかったと 目に涙
膝にもたれて 顔打ち眺め こんなお前に なぜ惚れた
ひたと寄り添い 抜き身の前に 殺しておくれと すがりつく
一筋と ばかり思いし あの朝顔も いつか隣へ 隠れ咲き
人に頼めば 浮名が恐し 二人じゃ文殊の 知恵も出ぬ
人の手前は 手管と見せて 実は惚れたで 胸の癪
人は涼しと 云う川岸に なぜか蛍が 身を焦がす
人は私を 凝り性と云うが 凝るも凝らぬも 先しだい
一筆染めして そろそろ後は 恨み文句に 迫る胸
人夜逢わぬを 恨むも道理 二度と一世に 無い月日
一人で差したる から傘ならば 片袖濡れよう はずがない
火鉢引き寄せ 灰かきならし 好いたお方の 頭文字
日和定めぬ この秋風に なびく尾花の 気が知れぬ
昼間が花やら 月夜が花か 結局闇夜に 薫る梅
広い世界に あなたの膝が たった一つの 泣きどころ
広い世界に お前と私 狭く楽しむ 窓の月
鬢のほつれ毛 枕の罪よ それをお前に うたぐられ
びんのほつれは 枕の咎よ 顔のやつれは 主の咎

「ふ」

夫婦喧嘩は 三日の月よ 一夜一夜で 丸くなる
更けた座敷を こっそり外し 色気離れた 大あくび
富士の山ほど 苦労は駿河 甲斐が有るかと また苦労
二人ばかりで 居る時さえも 火鉢一つの 関がある
太く書かるる 細見よりも 細く家内と 書かれたい
船板一枚 怖くはないが 舌の二枚が 恐ろしい
文の文句は 誠じゃけれど 筆にゃ狸の 毛がませる

「ほ」

他の草木が しおれて後に 松の操が 良くしれる
反古にしゃんすな 私の苦労 みんな誰ゆえ お前ゆえ
惚れた私が 重々悪い 可愛いと云ったは 主の罪
惚れているけど 言い出しにくい ならば先から 云わせたい
惚れて焦がれた 甲斐ない今宵 逢えばくだらぬ ことばかり

「ま」

誠を明かせば 嘘だと云うし 明かさにゃ不実と 云うだろう
松という字は 仲良い筈よ 公(きみ)と木(ぼく)との 差し向かい
まとまるものなら まとめておくれ 嫌で別れた 仲じゃない
招く柳の 姿に迷い 笑い染めたる 夏の雨
ままにならぬと お鉢を投げた そこら当たりは ままだらけ

「み」

右を立つれば 左が立たぬ 両方立つれば 身が立たぬ
操立てぬく 貞女でさえも 蚊帳へ引き込む 窓の月
水と魚との 仲でもふいと 風が変われば 波が立つ
水の月 手には取れぬと 諦めながら 濡れてみたさの 恋の欲
水の月とて 取れまいものか 手に水すくえば 月が浮く
未練者だと 云わんすけれど 切れるつもりじゃ 添いはせぬ
未練ものだと お前は言えど 斬るるつもりで 惚れはせぬ
未練らしいが ただ一言を 云ってやりたい 事がある
身をも命も 惜しまぬものを なんの浮名や 世の義理を

「む」

昔馴染みと つまづく石は 憎いながらも 振り返る
無理に帰るを 無理から留めて 無理と知りつつ 無理を言う

「も」

文字の読めない 女郎衆でさえも 人の鼻毛は 良く読める
もしも形で 心が知れりゃ 孔子は陽虎(ようこ)に 似はすまい
持ちかけられても 乗られぬものは 人の女房と 口車
持てりゃ散財 振られりゃヤケよ どうせこうなりゃ 空財布
もはや時間と 心で泣いて 無理に帰すも 主の為

「や」

八重の山吹 派手には咲けど 末は実のない 事ばかり
やせるはずだよ 今日この頃は 人の知らない 苦労する
山で伐る木は 数々あれど 思い切る気は 更にない

「ゆ」

結うに云われず 解くにも解けず 心千すじの 乱れ髪
雪に添い寝の 数々積もり 重い身となる 窓の竹
雪の化粧は さらりとやめて 素肌自慢の 夏の富士
雪をかむって 寝ている竹を 来ては雀が 揺り起こす
指もささせぬ 大事な人に 誰につけたか 爪の跡
夢ならば 覚めてくれるな 暫しの間 覚めて逢われる 身ではない
夢は逆夢 良いとは言えど わたしゃ嬉しい 逢うた夢

「よ」

宵に時計を 進めた罰で 今朝の別れが 早くなる
用があるとて 呼んだは嘘よ お顔見たさの はかりごと
様子聞かねば 腹がたつ これにゃだんだん 深い訳

「ら」

楽な務めじゃ 無いとは知れど 主の為なら いとやせぬ
楽は望まぬ 苦労は承知 苦労し甲斐の あるように
羅生門より 晦日がこわい 鬼が金札 取りに来る

「る」

留守にゃ案じる 帰れば邪魔よ いたずら盛りの 一人っ子

「わ」

我が儘するとて 叱るは無理よ 我が儘する人 他にない
別れがつらいと 小声で言えば 締める博多の 帯が泣く
別れのつらさに つい謎かけて 解けにゃ帰さぬ 今朝の雪
私が悪けりゃ あやまりましょう 機嫌直して 寝やしゃんせ
私とお前は 深雪の竹で 朝日差すまで 寝てみたい
わたしゃお前に ほの字とれの字 後の一字は 金次第
わたしゃ主ある 一重の桜 人に折らせる 枝は無い
わたしゃ深雪に 埋もれた梅よ 解けて花咲く 春をまつ
笑うて悲しい 座敷を抜けて 泣いて嬉しい 主のそば
笑うて辛気な 苦労もあれど 泣いて嬉しい こともある