端唄俗曲選集(7)

「秋の夜長」

秋の夜長に 
主に逢う夜の 短さよ
月夜烏が 鳴くわいな
月じゃごんせぬ 白々と
明けの鐘

月夜烏:月光のよい夜に浮かれて鳴く
烏のこと
明けの鐘:お寺で鳴らす明け六つの鐘
明け六つ(あけむつ)=明け方の六つ
の時、即ち卯の刻、現在の午前六時

 

「岩越す波」

岩越す波に 鶴亀日の出
祝う年こそ 目出度けれ

花柳界のお正月の御座付として唄われた曲

 

「えびの子」

えびの子は
生まれながらに 髭長く
腰に梓の 弓を張り
目が出 目出度かりける 次第なり

地唄「海老」が元唄でお正月のめでたい歌詞となっています

 

「浮草節」

鐘の音に 
夢は破れて うつつで泣いて
一夜情けの 仮寝の契り
思いは残るよ 今朝の雨よ
そこにもまた 浮草夜の花

海老の子は
生まれながらに 髭長々と
腰に梓の 弓を張り
四海波風よ 穏やかに
ほんにまた めでたい吉日ぞ

この唄は別名「満州節」とも言われています
浮草:「浮草」「夜の花」に例えられる花柳界で働く女性こと
四海波:波風がおさまって天下国家が平和なことを祝うもの

 

「オヤオヤかっぽれ」
小野金次郎:作詞・山田抄太郎:作曲

一、オヤ見てたとさ
  物干し台から 遠眼鏡
  焦がれ焦がれた あの人が
  やって来るかと 向こう河岸
  覗いて見たけど 世の中暗いネ
  オヤ オヤオヤオヤ
  暗いはずだよ
  両眼つぶって ン見てたとさ

二、オヤあったとさ
  取り持ち地蔵さんの 縁日を
  夫婦きどりで 歩いたら
  向こうも見たよな 二人連れ
  よくよく見たけど 世の中狭いネ
  オヤ オヤオヤオヤ
  狭いはずだよ
  おとっつぁんとおっかさんで
  ンあったとさ

三、オヤ寝てたとさ
  屋台帰りの 真夜中に
  靴も取らずに 高いびき
  狭いながらも 僕の家
  翌朝見たらば 世の中広いネ
  オヤ オヤオヤオヤ
  広いはずだよ お寺の本堂で
  ン寝てたとさ

 

「かごの鳥」

一、かごの鳥
  出でて羽ばたき 嬉しげに
  どこへ行こうと
  エーエーかまうもんか
  (勝手にしやがれ)

二、惚れさせて
  今じゃ先から 遠ざかる
  切れる所存か
  エーエーかまうもんか
  (勝手にしやがれ)

かごの鳥:娼妓(遊女)のこと
出でて羽ばたき嬉しげに:自由廃業が認められた遊女が年期があけて自由になった喜び
どこへ行こうとエエー~勝手にしやがれ:掌中の玉を奪われた楼主の気持ちを唄っている
二番:男の甘い言葉にのせられて散々みついだあげく男に捨てられた女の気持ちを唄っている

 

「今宵の様な」
 益田太郎冠者:作詞・作曲

一、今宵のような
  真っ黒くろくろ 黒装束で
  奴がちょうちん 
  パタリと落とせば 真の闇
  キナキナキナ

二、今宵のような
  真っ白しろしろ 白装束で
  柳の下から ヒュードロドロと
  化けて出たのが 幽霊か
  キナキナキナ

黒装束に覆面の怪しい武士が駕籠の中の主人を狙っていたが、お供の奴が提灯をパタリと切り落として真の闇になってしまった

 

「七福神」

そもそも我らは 西の宮の
夷三郎左右衛門の尉
色の黒いは 大黒天よ
長い頭巾かぶりて
老楽姿のおやじさん 誰じゃ誰じゃ
言わずと知れし 寿老人
顔の長いのは 福禄寿
布袋は土仏 その中に美しいのが
弁財天女 とほめたれば
そこで毘沙門腹を立て
そこで毘沙門腹を立て
なぜほめた なぜほめた
七福神のその中で
弁天一人をなぜほめたというのが
野暮かいな 笑う門には 福来る

七福神:古来七福神は福徳の神として尊われ、元日から七日まで七福神を巡拝して幸福を祈る風習がありました 七福神を並べ立て笑門来福で〆る、朗らかで目出度い端唄です
老楽姿(おいらくすがた):年老いた隠居姿
土仏(どぶつ):土製の仏像
特に、布袋の像をいう場合が多い つちぼとけ

 

「白酒」

そもやそも この富士の
白酒と申すは 昔々駿河の国
三保の浦に 白龍という漁夫
天人と夫婦になり
その天 乙女の乳房より
流れ出でたる 色を見て
造り始めし 酒なるゆえに
それからどうしたえ
第一寿命の薬にて さればにや
東方朔はこの酒を 八杯飲んで八千年
また浦島は 三杯飲んで三千年
三浦の大助 百六つ
おおさてもさっても 寿命の長い
富士の白酒 白酒

白酒:寛政11年3月 江戸中村座の「助六廓花見時」上演の時に作られた上方小唄が原曲
東方朔:中国の伝説で不老不死の薬を求めて長寿の桃を得たという人物
三浦の大助:源氏の武士で106才で頼朝公より恩賞を受けた人
富士の白酒:江戸で盛んに用いられていた濃白色の混成酒で、三月の節句には欠かせないものだった

 

「すだれ舟」

すだれ下ろした 舟の内
顔は見えねど 羽織の紋は
確か覚えの 三つ柏
呼んで違わば どうしょうと
後と先とに 心が迷うエエ
エエもうじれったい 舟の内

江戸の船遊びは元禄の時代からの風習で文化文政の頃がその全盛時代でした船遊びは浅草川から隅田川、下は大橋(今の永代橋)までで、春の花見船、夏の涼み船、秋の月見船や踊船等が有り、特に両国がその中心でした
屋根船は武士は障子を立て、町人は簾をかけることが定めで、船中に町芸者を入れ酒を持ち込む事は大目にみられていたが、天保以後、船の片隅に吉原枕が二つ常備される様になったのは退廃の極みでとなりました
三ツ柏:その芸者のお客である、清元の太夫の定紋

 

「竹になりたや(もとは)

竹になりたや 紫竹竹
もとは尺八 中は笛
末はそもじの 筆の軸
思い参らせ 候かしく
それそれ そうじゃいな

紫竹竹:単に紫竹ともいい、真竹の
 一種で生えた年は緑色、翌年から
 紫黒色に変わる
 もとの太い所は尺八となり、中は
 笛、末は筆の軸となる
そもじ:貴女という意味で、貴女の
 手に握られて「思い参らせ候かし
 く」と水茎の跡うるわしく書かれ
 たいといったところ

 

「びんほつくずし」

一、今朝の別れに 鳴いたる烏
  何が不足で 鳴くのやら
  いくら鳴いたとてさ
  しめたエ しめたこの手が
  離さりょか

二、思うお方と 別れたときは
  夜はまざまざ 寝もやらず
  なんぼ泣いたとてさ
  逢わりゃエ 逢わりゃせぬぞえ
  この心

三、今朝の寒さに 帰してなろか
  雪折れ笹の 群雀
  なんぼ泣いたとてさ
  しめたエ しめた手と手と
  肌と肌

 

「二人が仲(夜着)」

二人が仲は 夜着のうち
煮凝り大根 大二天
恋と情けと 色とよせ
三つのお山は 熊野山
朝間ヶ嶽は 浄瑠璃で
反魂香と 仇文句
愛宕は愛嬌 守り神
出雲は御存知 縁結び
涼みは貴船 恋の神
潮来出島に 佃節
富ヶ岡には 石清水
洲崎弁天 芸者の守護神
帰命妙見 大菩薩
風にもなびく 柳島
憎や烏が 謡いてし

この唄は神々の名寄せを早口にしゃべったもので、江戸時代の端唄では「二人が仲を天照す 天の岩戸はよぎの洞」と神々の始めに天照大神を出したのが後に「二人が仲は夜着の内」と甚だ色っぽい唄い出しに代えられてしましました
憎や烏が唄いてし:唄い出しの「夜着の内」から二人の楽しい夢を憎い烏に破られてしまったというものであろう
煮凝り大根大二天:隅田川の西崖にある待乳山の聖天様
三つのお山は熊野山:和歌山の熊野三山(本宮・新宮・那智)
浅間ヶ嶽は浄瑠璃:長野、群馬両県に誇る活火山の浅間山
浄瑠璃=芝居の浄瑠璃所作事に「浅間もの」と称する一つの系統が出来ていることを指す
反魂香は仇文句:芝居の「傾城反魂香」の浄瑠璃の文句を用いたもの
愛宕:京都愛宕山上の神社 愛宕権現
出雲:島根県の出雲大社
貴船:京都市の貴船神社
富ヶ岡には石清水:東西の八幡宮を唄ったもの
富ヶ丘八幡宮=東京都江東区
石清水八幡宮=京都府八幡市
洲崎の弁天:東京都江東区 洲崎神社(洲崎弁天)
妙見大菩薩:東京都墨田区 柳嶋妙見山法性寺

 

「水さし」

水さしの 
二言三言 言いつのり
茶杓にあらぬ かんしゃくの
わけ白玉の 投げ入れも
思わせぶりな 春雨に
茶巾さばきの 濡れ衣
口説もいつか 炭手前
主を囲いの 四畳半
うれしい首尾じゃ ないかいな

水差し:釜の湯を補う為に水を入れておく器であるが、ここは俗に言う「水をさす」つまり信じ合っている二人に中傷する人がいて、二言三言と言い合いをすることを指す
茶杓にあらぬかんしゃくの:語呂合わせで、間尺に合わぬを文字ったものと思われが苦しい洒落
わけ白玉の投げ入れ:訳は知らぬがという意味と、白玉椿の投入に挿した床をかけたもの
茶巾さばきの濡れ衣:抹茶椀を拭く時に用いる麻の布を茶巾といい、濡れた茶巾で茶碗を拭う作法を「茶巾さばき」といい、その濡れた茶巾と濡れ衣とかけた言葉
口説もいつか炭手前(みすでまえ):濡れ衣の口説が済んだことと、炉に炭をつぐ作法の炭手前とをかけたもの
主を囲いの四畳半:囲いは数寄屋(茶屋)でこれと主を屏風内に囲うことをかけたもの

 

「夜の雨」

夜の雨
もしや来るかと 畳算
紙で蛙の まじないも
虫が知らせて 灯火の
丁字もとんだ 今時分
気まぐれざんす エエ主の声

畳算:かんざし等を畳の上に落とし、落ちた所から畳の編み目を端まで数えてその丁半の数で吉凶を占うもの
紙で蛙のまじない:紙で折った蛙を針で刺し、これに祈ると待ち人来るという占い
丁字(ちょうじ):行灯の灯心の赤く焼けた先のことで、それが焼け落ちることを「丁字が飛ぶ」と言った

 

「わしが思い」

わしが思いは 三国一の
富士の深山の 白雪
積もりゃするとも 解けはせぬ
浮名立つかや 立つかや浮名
あんなお方と 云わんすけれど
人の心は 合縁奇縁
ほんに命も やる気になったわいな

浮名:悪い評判 男女間の情事のうわさ
合縁奇縁:人の交わりにはおのずから気心の合う合わないがあるが、それもみな不思議な縁によるものである

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「秋の夜長」

秋の夜長に 主に逢う夜の 短さよ
月夜烏が 鳴くわいな 
月じゃごんせぬ 白々と 明けの鐘

月夜烏:月光のよい夜に浮かれて鳴く烏のこと
明けの鐘:お寺で鳴らす明け六つの鐘 明け六つ(あけむつ)=明け方の六つの時、即ち卯の刻、現在の午前六時

 

「岩越す波」

岩越す波に 鶴亀日の出
祝う年こそ 目出度けれ

花柳界のお正月の御座付として唄われた曲

 

「えびの子」

えびの子は 生まれながらに 髭長く
腰に梓の 弓を張り
目が出 目出度かりける 次第なり

地唄「海老」が元唄でお正月のめでたい歌詞となっています

 

「浮草節」

鐘の音に 夢は破れて うつつで泣いて
一夜情けの 仮寝の契り 思いは残るよ 今朝の雨よ
そこにもまた 浮草夜の花

海老の子は 生まれながらに 髭長々と
腰に梓の 弓を張り 四海波風よ 穏やかに
ほんにまた めでたい吉日ぞ

この唄は別名「満州節」とも言われています
浮草:「浮草」「夜の花」に例えられる花柳界で働く女性こと
四海波:波風がおさまって天下国家が平和なことを祝うもの

 

「オヤオヤかっぽれ」小野金次郎:作詞・山田抄太郎:作曲

一、オヤ見てたとさ 物干し台から遠眼鏡 焦がれ焦がれた あの人が
  やって来るかと 向こう河岸 覗いて見たけど 世の中暗いネ
  オヤ オヤオヤオヤ 暗いはずだよ 両眼つぶって ン見てたとさ

二、オヤあったとさ 取り持ち地蔵さんの 縁日を 夫婦きどりで 歩いたら
  向こうも見たよな 二人連れ よくよく見たけど 世の中狭いネ
  オヤ オヤオヤオヤ 狭いはずだよ おとっつぁんとおっかさんで ンあったとさ

三、オヤ寝てたとさ 屋台帰りの 真夜中に 靴も取らずに 高いびき
  狭いながらも 僕の家 翌朝見たらば 世の中広いネ
  オヤ オヤオヤオヤ 広いはずだよ お寺の本堂で ン寝てたとさ

 

「かごの鳥」

一、かごの鳥 出でて羽ばたき 嬉しげに どこへ行こうと
  エーエーかまうもんか(勝手にしやがれ)

二、惚れさせて 今じゃ先から 遠ざかる 切れる所存か
  エーエーかまうもんか(勝手にしやがれ)

かごの鳥:娼妓(遊女)のこと
出でて羽ばたき嬉しげに:自由廃業が認められた遊女が年期があけて自由になった喜び
どこへ行こうとエエー~勝手にしやがれ:掌中の玉を奪われた楼主の気持ちを唄っている
二番:男の甘い言葉にのせられて散々みついだあげく男に捨てられた女の気持ちを唄っている

 

「今宵の様な」益田太郎冠者:作詞・作曲

一、今宵のような 真っ黒くろくろ 黒装束で
  奴がちょうちん パタリと落とせば 真の闇 キナキナキナ

二、今宵のような 真っ白しろしろ 白装束で
  柳の下から ヒュードロドロと 化けて出たのが 幽霊か キナキナキナ

黒装束に覆面の怪しい武士が駕籠の中の主人を狙っていたが、お供の奴が提灯をパタリと切り落として真の闇になってしまった

 

「七福神」

そもそも我らは 西の宮の 夷三郎左右衛門の尉
色の黒いは 大黒天よ 長い頭巾かぶりて
老楽姿のおやじさん 誰じゃ誰じゃ 言わずと知れし 寿老人
顔の長いのは 福禄寿 布袋は土仏
その中に美しいのが 弁財天女とほめたれば
そこで毘沙門腹を立て そこで毘沙門腹を立て
なぜほめた なぜほめた 七福神のその中で 弁天一人をなぜほめた
というのが 野暮かいな 笑う門には 福来る

七福神:古来七福神は福徳の神として尊われ、元日から七日まで七福神を巡拝して幸福を祈る風習がありました
    七福神を並べ立て笑門来福で〆る、朗らかで目出度い端唄です
老楽姿(おいらくすがた):年老いた隠居姿
土仏(どぶつ):土製の仏像 特に、布袋の像をいう場合が多い つちぼとけ

 

「白酒」

そもやそも この富士の 白酒と申すは
昔々駿河の国 三保の浦に 白龍という漁夫
天人と夫婦になり その天 乙女の乳房より
流れ出でたる 色を見て 造り始めし 酒なるゆえに
それからどうしたえ 第一寿命の薬にて さればにや 
東方朔はこの酒を 八杯飲んで八千年 また浦島は 三杯飲んで三千年
三浦の大助 百六つ おおさてもさっても 寿命の長い 富士の白酒 白酒

白酒:寛政11年3月 江戸中村座の「助六廓花見時」上演の時に作られた上方小唄が原曲
東方朔:中国の伝説で不老不死の薬を求めて長寿の桃を得たという人物
三浦の大助:源氏の武士で106才で頼朝公より恩賞を受けた人
富士の白酒:江戸で盛んに用いられていた濃白色の混成酒で、三月の節句には欠かせないものだった

 

「すだれ舟」

すだれ下ろした 舟の内
顔は見えねど 羽織の紋は 確か覚えの 三つ柏
呼んで違わば どうしょうと 後と先とに 心が迷う
エエ エエもうじれったい 舟の内

江戸の船遊びは元禄の時代からの風習で文化文政の頃がその全盛時代でした
船遊びは浅草川から隅田川、下は大橋(今の永代橋)までで、春の花見船、夏の涼み船、秋の月見船や踊船等が有り、特に両国がその中心でした
屋根船は武士は障子を立て、町人は簾をかけることが定めで、船中に町芸者を入れ酒を持ち込む事は大目にみられていたが、天保以後、
船の片隅に吉原枕が二つ常備される様になったのは退廃の極みでとなりました
三ツ柏:その芸者のお客である、清元の太夫の定紋

 

「竹になりたや(もとは)」

竹になりたや 紫竹竹 もとは尺八 中は笛
末はそもじの 筆の軸
思い参らせ 候かしく それそれ そうじゃいな

紫竹竹:単に紫竹ともいい、真竹の一種で生えた年は緑色、翌年から紫黒色に変わる
    もとの太い所は尺八となり、中は笛、末は筆の軸となる
そもじ:貴女という意味で、貴女の手に握られて「思い参らせ候かしく」と水茎の跡うるわしく書かれたいといったところ

 

「びんほつくずし」

一、今朝の別れに 鳴いたる烏 何が不足で 鳴くのやら
  いくら鳴いたとてさ しめたエ しめたこの手が 離さりょか

二、思うお方と 別れたときは 夜はまざまざ 寝もやらず
  なんぼ泣いたとてさ 逢わりゃエ 逢わりゃせぬぞえ この心

三、今朝の寒さに 帰してなろか 雪折れ笹の 群雀
  なんぼ泣いたとてさ しめたエ しめた手と手と 肌と肌

 

「二人が仲(夜着)」

二人が仲は 夜着のうち 
煮凝り大根 大二天 恋と情けと 色とよせ 
三つのお山は 熊野山 朝間ヶ嶽は 浄瑠璃で
反魂香と 仇文句 愛宕は愛嬌 守り神
出雲は御存知 縁結び 涼みは貴船 恋の神
潮来出島に 佃節 富ヶ岡には 石清水
洲崎弁天 芸者の守護神 帰命妙見 大菩薩
風にもなびく 柳島 憎や烏が 謡いてし

この唄は神々の名寄せを早口にしゃべったもので、江戸時代の端唄では「二人が仲を天照す 天の岩戸はよぎの洞」と神々の始めに天照大神を出したのが
後に「二人が仲は夜着の内」と甚だ色っぽい唄い出しに代えられてしましました
憎や烏が唄いてし:唄い出しの「夜着の内」から二人の楽しい夢を憎い烏に破られてしまったというものであろう
煮凝り大根大二天:隅田川の西崖にある待乳山の聖天様
三つのお山は熊野山:和歌山の熊野三山(本宮・新宮・那智)
浅間ヶ嶽は浄瑠璃:長野、群馬両県に誇る活火山の浅間山 浄瑠璃=芝居の浄瑠璃所作事に「浅間もの」と称する一つの系統が出来ていることを指す
反魂香は仇文句:芝居の「傾城反魂香」の浄瑠璃の文句を用いたもの
愛宕:京都愛宕山上の神社 愛宕権現
出雲:島根県の出雲大社
貴船:京都市の貴船神社
富ヶ岡には石清水:東西の八幡宮を唄ったもの 富ヶ丘八幡宮=東京都江東区  石清水八幡宮=京都府八幡市
洲崎の弁天:東京都江東区 洲崎神社(洲崎弁天)
妙見大菩薩:東京都墨田区 柳嶋妙見山法性寺

 

「水さし」

水さしの 二言三言 言いつのり
茶杓にあらぬ かんしゃくの わけ白玉の 投げ入れも
思わせぶりな 春雨に 茶巾さばきの 濡れ衣
口説もいつか 炭手前 主を囲いの 四畳半
うれしい首尾じゃ ないかいな

水差し:釜の湯を補う為に水を入れておく器であるが、ここは俗に言う「水をさす」つまり信じ合っている二人に中傷する人がいて、二言三言と言い合いをすることを指す
茶杓にあらぬかんしゃくの:語呂合わせで間尺に合わぬを文字ったものと思われが苦しい洒落
わけ白玉の投げ入れ:訳は知らぬがという意味と、白玉椿の投入に挿した床をかけたもの
茶巾さばきの濡れ衣:抹茶椀を拭く時に用いる麻の布を茶巾といい、濡れた茶巾で茶碗を拭う作法を「茶巾さばき」といい、その濡れた茶巾と濡れ衣とかけた言葉
口説もいつか炭手前(みすでまえ):濡れ衣の口説が済んだことと、炉に炭をつぐ作法の炭手前とをかけたもの
主を囲いの四畳半:囲いは数寄屋(茶屋)でこれと主を屏風内に囲うことをかけたもの

 

「夜の雨」

夜の雨 もしや来るかと 畳算
紙で蛙の まじないも 虫が知らせて 灯火の
丁字もとんだ 今時分 気まぐれざんす エエ 主の声

畳算:かんざし等を畳の上に落とし、落ちた所から畳の編み目を端まで数えてその丁半の数で吉凶を占うもの
紙で蛙のまじない:紙で折った蛙を針で刺し、これに祈ると待ち人来るという占い
丁字(ちょうじ):行灯の灯心の赤く焼けた先のことで、それが焼け落ちることを「丁字が飛ぶ」と言った

 

「わしが思い」

わしが思いは 三国一の 富士の深山の 白雪
積もりゃするとも 解けはせぬ
浮名立つかや 立つかや浮名
あんなお方と 云わんすけれど
人の心は 合縁奇縁
ほんに命も やる気になったわいな

浮名:悪い評判 男女間の情事のうわさ
合縁奇縁:人の交わりにはおのずから気心の合う合わないがあるが、それもみな不思議な縁によるものである