端唄俗曲選集(3)

端唄俗曲選集(3)

「浅草詣り」

浅草詣り 蔵前通れば お菰がせがむ
随くな 随くな 随くな 随くな
エエ随くな
おくんなさい 有るの無いのと
おっしゃるような 御人体じゃない
長井兵助 居合い抜き
成田八幡 駒形や
そこな雷門で 飛んだり跳ねたり 踊ったり
おもちゃ 仲見世五十軒(四十二軒)
ござれ参りましょう
御本尊へ 参詣して
後は奥山見物 こんこままわし(花屋敷)
ぞめきはやして 花屋敷(おもしろや)

浅草詣り:長唄「越後獅子~なんたらぐちだえ」の部分の替え歌
長井兵助:江戸時代の大道芸人代々江戸蔵前に住み、初代は松井源水の門下

 

「潮来出島」

一、潮来出島の 真菰の中で
  あやめ咲くとは しおらしや
 ※サーヨンヤサ ヨンヤサ

二、宇治の柴舟 早瀬を渡る
  わたしゃ君ゆえ のぼりつめ ※

三、花は色々 五色に咲けど
  主にみかえる 花はない ※

あやめ:菖蒲ではなく、渓菰(はなあやめ)又は花菖蒲のこと、ここでは潮来の遊女を指したものと思われる
宇治の柴舟:山城国(京都)の宇治川を
    下る柴を積んだ舟
早瀬:水の早く流れる瀬

 

「梅ヶ枝の手水鉢」

一、梅ヶ枝の 手水鉢
  たたいてお金が 出るならば
  もしもお金が 出たときは
  その時ゃ身請けを ソーレ頼む

二、青柳の 風の糸
  結んで縁(えにし)に なるならば
  もしも縁に なるならば
  桜の色香を ソーレ頼む

三、この頃の 米相場
  当たって儲けに なるならば
  もしも儲けに なるならば
  その時ゃ 芸者衆をソーレ頼む

梅ヶ枝:人形浄瑠璃「ひらがな盛衰記」の四段、神崎揚屋の段の梅ヶ枝の心境を唄ったもの
夫の景季の為に三百両の金を手に入れたくて、手水鉢を無間の鐘にみたてて鐘をつく下りを唄にした
無間の鐘:遠江、小夜の中山の観音寺の鐘、これを撞くと現世で富裕になれるが来世は無間地獄に落ちるという

 

「梅にも春」

梅にも春の 色添えて
若水くみか 車井戸
音もせわしき 鳥追いや
朝日にしげき 人影を
もしやと思う 恋の欲
遠音神楽や 数とりの
待つ辻占や ねずみ鳴き
逢うてうれしき 酒きげん
濃茶が出来たら あがりゃんせ
ササ持っといで

若水:元日の朝初めて汲む水 一年の邪気を除く
鳥追い:門付けの一つ 江戸時代年始に女太夫が新服を身につけて編み笠をかぶり鳥追い唄を唄い、三味線を弾き人家の門に立って合力を乞うたもの
鳥追い唄:江戸時代に行われた門付け唄 農家の鳥追いから出て、初春に田畑の豊年を祈る祝詞となり、一般的な祝い唄となったもの
辻占:四辻に立ち、初めに通った人の言葉を聞いて物事の吉凶を判断する占い
辻=十字路
ねずみ鳴き:男女の逢い引きの合図 遊女等がお客を呼び入れようとする時にだす声

 

「お互いに」

お互いに 
知れぬが花よ 世間の人に
知れりゃ互いの 身のつまり
あくまでお前に 情たてて
惚れたが無理かえ しょんがいな
迷うたが無理かえ
 (藤八五文でこりゃ奇妙)
※最後に( )が入ることもある

藤八五文:本家は長崎の錦屋藤八の一粒五文で万病に利くという触れ売り言葉 二人で声を掛け合いながら売り歩く様子が面白く評判となった
藤八拳の名の起こり

 

「書き送る」

書き送る
文もしどなき 仮名書きの
抱いて寝よとの 沖こえて
岩にせかれて 散る波の
雪かみぞれか みぞれか雪か
とけて波路の ふたつ文字
妻を恋しと 慕うて暮らすえ

しどなき:しどない・しどけない・だらしがない、秩序がなく雑然としている
ふたつ文字:「二つ文字 牛の角文字  すぐな文字 ゆがみ文字とぞ 吾は おもほゆ」という和歌から採ったもの
「二つ文字」=「こ」 「牛の角文字」=「い」 「すぐな文字」=「し」 「ゆがみ文字」=「く」
「恋しく」という気持ちを文字の形で表したもの

 

「京の四季」

春は花 
いざ見にごんせ 東山
色香争う 夜桜や
うかれうかれて 粋も不粋も 物堅い
二本さしても 柔らこう
祇園豆腐の 二軒茶屋
禊ぎぞ夏は うちつれて
河原に集う 夕涼み
ヨイヨイヨイヨイ ヨンヤサ

真葛が原に そよそよと
秋は色増す 華頂山
時雨をいとう 唐傘に
濡れて紅葉の 長楽寺
思いぞつもる 円山に
今朝も来てみる 雪見酒
エエそしてやぐらの 差し向かい
ヨイヨイヨイヨイ ヨンヤサ

不粋:粋の逆 粋で無いこと、通では無いこと、野暮臭いこと、無骨
物堅い:物堅し 物事につつしみ深い、律儀である
祇園豆腐:京都八坂神社鳥居前の二軒茶屋で売ったからいう、精製した絹ごし豆腐
禊ぎ:身に罪、けがれのある時、又重い神事等に従う前に川で身を洗い清めること
真葛:葛の美称 「真葛が原」葛が生えている原
時雨:「過ぐる」から出た語で、通り雨の意味・晩秋から冬の始め頃に降ったり止んだりする雨
俳諧では初冬の季語

 

「きんらい節」

一、当り鉢 伏せて眺めりゃ 三国一の
  味噌を駿河の 富士の山
 ※キビスガンガン イガイドンス
  キンムクレッツノ スクネッポ
  スッチャンマンマン カンマンカイノ
  オッペラポウノ キンライライ
  そうじゃおまへんか
  あほらしいじゃおまへんか

二、浦里が
  忍び泣きょすりゃ みどりも共に
  もらい泣きょする 明烏 ※

三、千両箱 富士の山程 積んではみたが
  冥土の土産にゃ なりゃしまい ※

二番:歌舞伎「明烏」より

 

「玉川」

玉川の 水にさらせし 雪の肌
積もる口説の そのうちに
解けし島田の もつれ髪
思い出さずに 忘れずに
又来る春を 待つぞえ

口説:おしゃべり、言い争い
島田:島田髷(しまだまげ) 日本髪において最も一般的な女髷
特に未婚女性や花柳界の女性が多く結った

 

「どんどん節」

一、駕籠で行くのは お軽じゃないか
  私ゃ売られて 行くわいな
  父さんご無事で 又母さんも
  勘平さんも 折々は便り
  聞いたり 聞かせたり ドンドン

二、花は上野か あの浅草か
  花の霞に うかうたと
  逢いに来たのに 又騙されて
  つむじまがりの 春の風
  花もやきもき 散るばかり ドンドン

三、駕籠で行くのは エビ子じゃないか
  私ゃ売られて 行くわいな
  いやでも衣を あの着せられて
  あつい油で あげられて
  末はご飯の 上に乗るドンドン(天丼)

四、酒はもとより 好きでは飲まぬ
  逢えぬつらさに やけで飲む
  やめておくれよ やけ酒ばかり
  弱い体を 持ちながら
  後の始末は 誰がする ドンドン

 

「猫じゃ猫じゃ」

一、猫じゃ猫じゃと おっしゃいますが
  猫が 猫が下駄はいて
  絞りの浴衣で 来るものか
  オッチョコチョイノチョイ
  オッチョコチョイノチョイ

二、蝶々とんぼや きりぎりす
  山で 山でさえずるのは
  松虫 鈴虫 くつわ虫
  オッチョコチョイノチョイ
  オッチョコチョイノチョイ

 

「びんのほつれ」

一、びんのほつれは 枕の科よ
  それをお前に うたぐられ
  つとめじゃえ 苦界じゃ 許しゃんせ

二、雨はしとしと 降るその中を
  どうしてもあなたは ゆかんすか
  待たしゃんせ
  まだまだ 云いたい事がある

三、待てば添われる 身を持ちながら
  急いて世間を 狭くする
  急かなきゃえ 先越す人がある

びん:髪
(とが):罪・あやまち
苦界:年季契約にしばられる遊女の境遇

 

「深川くずし」

一、丸髷に
  結われる身をば 持ちながら
  粋な島田や ほんとうにそうだわネ
  チョイト 銀杏返し
  取る手もはずかし 左褄デモネ

二、丸橋が 塀の深さを ためさんと
  かかるところへ ほんとにそうだわネ
  チョイト 伊豆の守
  知られちゃならんと 千鳥足デモネ

三、中づくし 石川五右衛門 釜の中
  お染久松 ほんとにそうだわネ
  チョイト 倉の中
  私と貴方は 深い仲デモネ

丸髷:嫁いだ女の髪の結い方
島田:静岡県中央南部、大井川左岸の市(五十三次の一つ)の遊女の結い始めたもの主に未婚の人が結う
銀杏返し:髻(もとどり)を二分して左右に曲げてそれぞれ輪を作り、毛先を元結で根に結んだもの
左褄:着物の左方の褄 左手で褄をとって歩むからいう芸者の異称
丸橋:丸橋忠弥 二番は歌舞伎「慶安太平記」のことを唄っている
石川五右衛門:歌舞伎のお芝居で五右衛門が釜ゆでの刑に処された
お染久松:歌舞伎「野崎村」の登城人物

 

「ほととぎす」

ほととぎす 自由自在に 聞く里は
酒屋へ三里 豆腐屋へ二里という在所でも
粋な 好いたお方と 暮らすなら
末は野末の 薦垂に
身は捨て鉢の この身体

在所:田舎 この場合「酒屋へ三里豆腐屋へ二里」くらい離れた遠い所
野末:野の果て
薦垂れ(こもだれ):出入口に薦を垂れ
   下げていることから乞食小屋
:粗く織ったむしろ お薦=乞食

 

「待てというなら」

一、待てと言うなら 五年はおろか
  柳新芽の 枯るるまで
  とかく浮世は 気散じな
  のほほんで 暮らしゃんせ

二、世間せもうして 気兼ねするよりも
  その日その日の 風次第
  とかく浮世は 色と酒
  好いた同志で 暮らしゃんせ

三、春は桜よ 梅雨ならあやめ
  夏は朝顔 夕涼み
  すすき白菊 色紅葉
  ほんのりと 雪見酒
  (初代藤本琇丈・作詞)

浮世:無常の世(定まりのない世)・この世の中・世間・人生
気散じ:心の憂さをまぎらわすこと気晴らし・気苦労のないこと・のんき

 

「槍さび」

一、槍はさびても 名はさびぬ
  昔忘れぬ 落とし差し
  エーサァサ ヨイヨイヨイヨイ
  エーヨンヤーサー

二、鳶はさびても 名はさびぬ
  昔ながらの 纏もち
  エーサァサ ヨイヨイヨイヨイ
  エーヨンヤーサー

落とし差し:刀をきちんと差さずに、刀の鐺をまっすぐ下にさすこと
鐺=刀の鞘尻の部分

 

「夕暮れ」

夕暮れに 眺め見渡す 隅田川
月に風情を 待乳山
帆上げた船が 見ゆるぞえ
アレ鳥が鳴く 鳥の名も
都に名所が あるわいな

待乳山:台東区の隅田川に臨む小丘で聖天の森のあるところ(その上にかかる夕月の美しさと満々たる大川を漕ぎ下る帆掛け舟 それに飛び交う都鳥を唄ったもの)
都鳥:ゆりかもめ

 

「夜ざくら」

夜桜や 浮かれ烏が まいまいと
花の木陰に 誰やらがいるわいな
とぼけしゃんすな
芽吹き柳が 風にもまれて
エーふわり ふうわりふうわりと
オーサ そうじゃいな そうじゃわいな

夜桜:特に夜間だけに咲く特殊な桜ではなく、吉原で夜間に集まってくる嫖客や地廻り連中のサービスの為に仲之町の中央部に桜を植え賑わいを一層高めた
「浮かれ烏がまいまいと」という歌詞が内容をよく表現しています
烏=お客

 

「よりを戻して」

一、よりを戻して 逢う気はないか
  未練で言うのじゃ なけれども
  鳥も枯れ木に 二度止まる
  チョイト(ちと)逢いたいね

二、例え文でも 便りがあれば 
  待つ夜焦がるる 胸の内
  思いやる瀬は あるわいな
  チョイト 待ちかねる

三、かわいがられる 座敷を抜けて
  逢いに来たのに 水くさい
  浮気するにも 程がある
  チョイト おかしゃんせ

よりを戻す:一度切れた縁を復縁すること「鳥」は女、「枯れ木」は男に例えたもので、枯れ木に鳥がとまるのも昔懐かしさの故ではないかと言うところか

【ご注意】お使いのブラウザの設定により音声ファイルが全て同時に自動再生される場合がございます。
     ミュートをかけて頂き全ての再生が終わるまで1分ほどお待ちください。
     自動再生が終了しましたら個別にお聞き頂けます。申し訳ございません。
     (スマートフォンでは自動再生は行われません)

「浅草詣り」

浅草詣り 蔵前通れば お菰がせがむ随くな
随くな 随くな 随くな エエ随くな 
おくんなさい 有るの無いのと おっしゃるような 御人体じゃない
長井兵助 居合い抜き 成田八幡 駒形や
そこな雷門で 飛んだり跳ねたり 踊ったり
おもちゃ 仲見世五十軒(四十二軒)
ござれ参りましょう 御本尊へ 参詣して
後は奥山見物 こんこままわし(花屋敷)
ぞめきはやして 花屋敷(おもしろや)

浅草詣り:長唄「越後獅子~なんたらぐちだえ」の部分の替え歌
長井兵助:江戸時代の大道芸人代々江戸蔵前に住み、初代は松井源水の門下

 

「潮来出島」

一、潮来出島の 真菰の中で あやめ咲くとは しおらしや
 ※サーヨンヤサ ヨンヤサ

二、宇治の柴舟 早瀬を渡る わたしゃ君ゆえ のぼりつめ ※

三、花は色々 五色に咲けど  主にみかえる 花はない ※

あやめ:菖蒲ではなく、渓菰(はなあやめ)又は花菖蒲のこと、ここでは潮来の遊女を指したものと思われる
宇治の柴舟:山城国(京都)の宇治川を下る柴を積んだ舟
早瀬:水の早く流れる瀬

 

「梅ヶ枝の手水鉢」

一、梅ヶ枝の 手水鉢 たたいてお金が 出るならば
  もしもお金が 出たときは その時ゃ身請けを ソーレ頼む

二、青柳の 風の糸 結んで縁(えにし)に なるならば
  もしも縁に なるならば 桜の色香を ソーレ頼む

三、この頃の 米相場 当たって儲けに なるならば
  もしも儲けに なるならば その時ゃ 芸者衆をソーレ頼む

梅ヶ枝:人形浄瑠璃「ひらがな盛衰記」の四段目、神崎揚屋の段の梅ヶ枝の心境を唄ったもの
    夫の景季の為に三百両の金を手に入れたくて、手水鉢を無間の鐘にみたてて鐘をつく下りを唄にした
無間の鐘:遠江、小夜の中山の観音寺の鐘 これを撞くと現世で富裕になれるが来世は無間地獄に落ちるという

 

「梅にも春」

梅にも春の 色添えて 
若水くみか 車井戸 音もせわしき 鳥追いや
朝日にしげき 人影を もしやと思う 恋の欲
遠音神楽や 数とりの 待つ辻占や ねずみ鳴き
逢うてうれしき 酒きげん
濃茶が出来たら あがりゃんせ ササ持っといで

若水:元日の朝初めて汲む水一年の邪気を除く
鳥追い:門付けの一つ 江戸時代年始に女太夫が新服を身につけて編み笠をかぶり鳥追い唄を唄い、三味線を弾き人家の門に立って合力を乞うたもの
鳥追い唄:江戸時代に行われた門付け唄 農家の鳥追いから出て、初春に田畑の豊年を祈る祝詞となり、一般的な祝い唄となった
辻占:四辻に立ち、初めに通った人の言葉を聞いて物事の吉凶を判断する占い
辻=十字路
ねずみ鳴き:男女の逢い引きの合図 遊女等がお客を呼び入れようとする時にだす声

 

「お互いに」

お互いに 知れぬが花よ 
世間の人に 知れりゃ互いの 身のつまり
あくまでお前に 情たてて 惚れたが無理かえ 
しょんがいな迷うたが無理かえ (藤八五文でこりゃ奇妙)
※最後に( )が入ることもある

藤八五文:本家は長崎の錦屋藤八の一粒五文で万病に利くという触れ売り言葉 二人で声を掛け合いながら売り歩く様子が面白く評判となった
     藤八拳の名の起こり

 

「書き送る」

書き送る 文もしどなき 仮名書きの
抱いて寝よとの 沖こえて 岩にせかれて 散る波の
雪かみぞれか みぞれか雪か とけて波路の ふたつ文字
妻を恋しと 慕うて暮らすえ

しどなき:しどない・しどけない・だらしがない、秩序がなく雑然としている
ふたつ文字:「二つ文字 牛の角文字 すぐな文字 ゆがみ文字とぞ 吾はおもほゆ」という和歌から採ったもの
「二つ文字」=「こ」 「牛の角文字」=「い」 「すぐな文字」=「し」 「ゆがみ文字」=「く」 「恋しく」という気持ちを文字の形で表したもの

 

「京の四季」

春は花 いざ見にごんせ 東山 色香争う 夜桜や
うかれうかれて 粋も不粋も 物堅い 
二本さしても 柔らこう 祇園豆腐の 二軒茶屋
禊ぎぞ夏は うちつれて 河原に集う 夕涼み
ヨイヨイヨイヨイ ヨンヤサ

真葛が原に そよそよと秋は色増す 華頂山
時雨をいとう 唐傘に 濡れて紅葉の 長楽寺
思いぞつもる 円山に 今朝も来てみる 雪見酒
エエそしてやぐらの 差し向かい
ヨイヨイヨイヨイ ヨンヤサ

不粋:粋の逆粋で無いこと、通では無いこと、野暮臭いこと、無骨
物堅い:物堅し 物事につつしみ深い 律儀である
祇園豆腐:京都八坂神社鳥居前の二軒茶屋で売ったからいう、精製した絹ごし豆腐
禊ぎ:身に罪、けがれのある時、又重い神事等に従う前に川で身を洗い清めること
真葛:葛の美称 「真葛が原」葛が生えている原
時雨:「過ぐる」から出た語で、通り雨の意味 晩秋から冬の始め頃に降ったり止んだりする雨
   俳諧では初冬の季語

 

「きんらい節」

一、当り鉢 伏せて眺めりゃ 三国一の 味噌を駿河の 富士の山 
 ※キビスガンガン イガイドンス キンムクレッツノ スクネッポ
  スッチャンマンマン カンマンカイノ オッペラポウノ キンライライ
  そうじゃおまへんか あほらしいじゃおまへんか

二、浦里が 忍び泣きょすりゃ みどりも共に もらい泣きょする 明烏 ※

三、千両箱 富士の山程 積んではみたが 冥土の土産にゃ なりゃしまい ※

二番:歌舞伎「明烏」より

 

「玉川」

玉川の 水にさらせし 雪の肌
積もる口説の そのうちに 解けし島田の もつれ髪
思い出さずに 忘れずに又来る春を 待つぞえ

口説:おしゃべり、言い争い
島田:島田髷(しまだまげ) 日本髪において最も一般的な女髷、特に未婚女性や花柳界の女性が多く結った

 

「どんどん節」

一、駕籠で行くのは お軽じゃないか
  私ゃ売られて 行くわいな 父さんご無事で 又母さんも
  勘平さんも 折々は便り 聞いたり 聞かせたり ドンドン

二、花は上野か あの浅草か
  花の霞に うかうたと 逢いに来たのに 又騙されて
  つむじまがりの 春の風 花もやきもき 散るばかり ドンドン

三、駕籠で行くのは エビ子じゃないか
  私ゃ売られて 行くわいな いやでも衣を あの着せられて
  あつい油で あげられて 末はご飯の 上に乗るドンドン(天丼)

四、酒はもとより 好きでは飲まぬ 
  逢えぬつらさに やけで飲む やめておくれよ やけ酒ばかり
  弱い体を 持ちながら 後の始末は 誰がする ドンドン

 

「猫じゃ猫じゃ」

一、猫じゃ猫じゃと おっしゃいますが 
  猫が 猫が下駄はいて 絞りの浴衣で 来るものか
  オッチョコチョイノチョイ オッチョコチョイノチョイ

二、蝶々とんぼや きりぎりす
  山で 山でさえずるのは 松虫 鈴虫 くつわ虫
  オッチョコチョイノチョイ  オッチョコチョイノチョイ

 

「びんのほつれ」

一、びんのほつれは 枕の科よ それをお前に うたぐられ
  つとめじゃえ 苦界じゃ 許しゃんせ

二、雨はしとしと 降るその中を どうしてもあなたは ゆかんすか
  待たしゃんせ まだまだ云いたい 事がある

三、待てば添われる 身を持ちながら 急いて世間を 狭くする
  急かなきゃえ 先越す人がある

びん:髪
科(とが):罪・あやまち
苦界:年季契約にしばられる遊女の境遇

 

「深川くずし」

一、丸髷に 結われる身をば 持ちながら
  粋な島田や ほんとうにそうだわネ チョイト 銀杏返し
  取る手もはずかし 左褄デモネ

二、丸橋が 塀の深さを ためさんと
  かかるところへ ほんとにそうだわネ チョイト 伊豆の守
  知られちゃならんと 千鳥足デモネ

三、中づくし 石川五右衛門 釜の中
  お染久松 ほんとにそうだわネ チョイト 倉の中
  私と貴方は 深い仲デモネ

丸髷:嫁いだ女の髪の結い方
島田:静岡県中央南部、大井川左岸の市(五十三次の一つ)の遊女が結い始めたもの 主に未婚の人が結う
銀杏返し:髻(もとどり)を二分して左右に曲げてそれぞれ輪を作り、毛先を元結で根に結んだもの
左褄:着物の左方の褄 左手で褄をとって歩むからいう芸者の異称
丸橋:丸橋忠弥 二番は歌舞伎「慶安太平記」のことを唄っている
石川五右衛門:歌舞伎のお芝居で五右衛門が釜ゆでの刑に処された
お染久松:歌舞伎「野崎村」の登城人物

 

「ほととぎす」

ほととぎす 自由自在に 聞く里は
酒屋へ三里 豆腐屋へ二里という 在所でも
粋な好いたお方と 暮らすなら
末は野末の 薦垂に 身は捨て鉢の この身体

在所:田舎 この場合「酒屋へ三里豆腐屋へ二里」くらい離れた遠い所
野末:野の果て
薦垂れ(こもだれ):出入口に薦を垂れ下げていることから乞食小屋
薦:粗く織ったむしろ お薦=乞食

 

「待てというなら」

一、待てと言うなら 五年はおろか 柳新芽の 枯るるまで
  とかく浮世は 気散じな のほほんで 暮らしゃんせ

二、世間せもうして 気兼ねするよりも その日その日の 風次第
  とかく浮世は 色と酒 好いた同志で 暮らしゃんせ

三、春は桜よ 梅雨ならあやめ 夏は朝顔 夕涼み
  すすき白菊 色紅葉 ほんのりと 雪見酒(初代藤本琇丈・作詞)

浮世:無常の世(定まりのない世)・この世の中・世間・人生
気散じ:心の憂さをまぎらわすこと気晴らし・気苦労のないこと・のんき

 

「槍さび」

一、槍はさびても 名はさびぬ 昔忘れぬ 落とし差し
  エーサァサ ヨイヨイヨイヨイ エーヨンヤーサー

二、鳶はさびても 名はさびぬ 昔ながらの 纏もち
  エーサァサ ヨイヨイヨイヨイ エーヨンヤーサー

落とし差し:刀をきちんと差さずに、刀の鐺をまっすぐ下にさすこと 鐺=刀の鞘尻の部分

 

「夕暮れ」

夕暮れに 眺め見渡す 隅田川
月に風情を 待乳山 帆上げた船が 見ゆるぞえ
アレ鳥が鳴く 鳥の名も都に名所が あるわいな

待乳山:台東区の隅田川に臨む小丘で聖天の森のあるところ
(その上にかかる夕月の美しさと満々たる大川を漕ぎ下る帆掛け舟 それに飛び交う都鳥を唄ったもの)
都鳥:ゆりかもめ

 

「夜ざくら」

夜桜や 浮かれ烏が まいまいと 花の木陰に 誰やらがいるわいな
とぼけしゃんすな 芽吹き柳が 風にもまれて
エーふわり ふうわりふうわりと オーサ そうじゃいな そうじゃわいな

夜桜:特に夜間だけに咲く特殊な桜ではなく、吉原で夜間に集まってくる嫖客や地廻り連中のサービスの為に仲之町の中央部に桜を植え賑わいを一層高めた
   「浮かれ烏がまいまいと」という歌詞が内容をよく表現しています 烏=お客

 

「よりを戻して」

一、よりを戻して 逢う気はないか 未練で言うのじゃ なけれども
  鳥も枯れ木に 二度止まる チョイト(ちと)逢いたいね

二、例え文でも 便りがあれば 待つ夜焦がるる 胸の内
  思いやる瀬は あるわいな チョイト 待ちかねる

三、かわいがられる 座敷を抜けて 逢いに来たのに 水くさい
  浮気するにも 程がある チョイト おかしゃんせ

よりを戻す:一度切れた縁を復縁すること
「鳥」は女、「枯れ木」は男に例えたもので、枯れ木に鳥がとまるのも昔懐かしさの故ではないかと言うところか